ティール組織のメリットやデメリットは何か?
近年、ティール組織は、新しい組織のあり方のひとつとして、注目されています。企業の経営者や人事担当者の中には、「自社でもティール組織を取り上げたいが、本当に効果があるのだろうか」などの疑問を持つ方も多いでしょう。
今回は、ティール組織の言葉の意味やメリットとデメリット、実際にティール組織を導入している具体的な事例や失敗しないポイントまで紹介します。
ティール組織とは?
ティール組織の言葉の意味
ティール組織の意味とは、社長や上司などがマイクロマネジメントをしなくても、目的のために進化し続ける組織のことです。特徴としては、従業員個人が自分たちのルールや仕組みを独自に工夫しながら理解して、意思決定していきます。
ティール組織に移行する意味や期待されていることは、組織内の階層的な上下関係や定期的なミーティングなどの組織構造や慣例を撤廃することです。そして、意思決定に関する権限を管理職から従業員個人に譲渡することによって、組織に革新を起こします。
ティール組織が注目されている背景
ティール組織は、2014年にフレデリック・ラルーが出版した著書である「Reinventing Organizations」において紹介された概念です。その本の中でティール組織は、旧来型の組織とは一線を画する組織として提示されており、「これまでの組織論の常識を覆している」と評価されました。最近では、経営層などのリーダー格の人から注目を集めています。
達成型組織との違い
ティール組織と達成型組織の違いについて見ていきましょう。まず、達成型組織は、社員個人の自己実現よりも組織の目的達成が優先のため、メンバーの状態が軽視されるというデメリットがあります。具体的な例として、「企業として他社との競争を打ち勝たなければならない」などが挙げられます。
一方、ティール組織では、すべてのメンバーが平等に権利と責任を持って、独自に工夫を凝らしながら目的達成に向かって行動します。そのため、組織内のメンバー一人一人が自発的に仕事に取り組むことができます。こうした特徴があることから、達成型組織で生じるメンバーの状態が軽視される問題が、ティール組織では発生しにくいです。
ホラクラシーとの違い
ティール組織とホラクラシーの違いについても見ていきましょう。ホラクラシーとは、「経営者」などの役職自体を持たないティール組織のことを意味します。
ティール組織には、「役職を持たない」経営を行う形態と「役職を持たせる」経営を行う形態の2種類があります。その中で、ホラクラシーは前者の形態を指します。メンバー個人の自由度がより高いティール組織の形態のことを、ホラクラシーであると理解しましょう。
ティール組織のメリット
メリット①主体性や当事者意識が高まる
ティール組織のメリットの一つ目は、主体性や当事者意識が高まることです。ティール組織では、社員全員がそれぞれの能力に応じて、役割をこなしていきます。
そして、社員一人一人が決定権を持っているので、個人の考え方や意識がそのまま企業全体への事業成績へと直結します。そのため、メンバーの主体性や当事者意識が高まるというメリットが期待できるでしょう。
メリット②計画を実行する人が増える
ティール組織のメリットの二つ目は、計画を実行する人が増えることです。日本企業にも多い従来型の組織は、管理職と現場で作業する従業員が分かれています。会社の業績を改善するには、従業員のような計画を実行する人を増やすことが不可欠でしょう。
ティール組織を導入することで、組織がよりフラットになるので「計画を実行する人」が増えます。そして、より業務を効率的かつ円滑に進められるため、生産性の向上というメリットも得られるでしょう。
メリット③変化に対応しやすくなる
ティール組織のメリットの三つ目は、変化に対応しやすくなることです。近年、グローバル化などによりビジネス環境が急速に変化しており、ティール組織は、企業として存続するために適した組織形態だと考えられています。
ティール組織を導入することで、メンバー一人一人が即座に判断・実行できる力が向上するので、変化に対応しやすくなるでしょう。また、変化への対応を繰り返し行うと、逆境からでも成長する能力も高まり、打たれ強い組織になるメリットもあります。
ティール組織のデメリット
デメリット①組織として成り立たなくなる可能性がある
ティール組織のデメリットの一つ目は、組織として成り立たなくなる可能性があることです。ティール組織では、メンバー一人一人がセルフマネジメント力を持つ必要があります。もし、メンバーのセルフマネジメント力が低下した状態が続くと、組織全体の生産性も低下するでしょう。
そうならないためにも、セルフマネジメントが低下する前に、メンバー間で話し合いの場を設けましょう。「なぜ、セルフマネジメントが低下したのか」という原因と今後の改善策をじっくり時間をかけて練ることが重要です。
デメリット②プロジェクトの進捗状況が把握しづらい
ティール組織のデメリットの二つ目は、プロジェクトの進捗状況が把握しづらいことです。ティール組織を導入している企業の中には、管理職が存在しない場合が多く、基本的にメンバー一人一人が進捗管理をします。そのため、従来型の組織に比べて、プロジェクトの進捗状況が把握しづらいというデメリットが発生するのです。
進捗状況がわからないと、現状のプロジェクト問題点が認識できません。そうした課題を解決するために、定期的にミーティングを行い、プロジェクトの進捗状況を共有しましょう。
デメリット③リスク管理が困難になる恐れもある
ティール組織のデメリットの三つ目は、リスク管理が困難になる恐れがあることです。従来型の組織は、何か意思決定をする場合、明確な承認フローが存在します。新規事業を始める際などに、承認プロセスが多いとスピード感に欠けるというデメリットがありますが、リスク管理は徹底されます。
一方、ティール組織では、プロジェクトを実施するかをメンバー全員で話し合って決めます。プロジェクトの内容が魅力的だった場合、十分にリスク管理しないまま、プロジェクトが採用されてしまう恐れがあるでしょう。このようにティール組織を導入するには、デメリットも多いことがわかります。
ティール組織に至るまでのフェーズ
レッド組織(衝動型)
ティール組織を実現するためには、5つのフェーズがあります。まず一つ目のフェーズは、最古の組織体系であるレッド組織です。この組織は、強い権力を持った自己中心的な考えのメンバーによって構成されます。
そのため、組織の秩序が恐怖により保たれるのです。個人の力が大きく影響するので、組織全員が自分以外を敵とみなします。事例として分かりやすいのが、マフィアやギャングです。
アンバー組織(順応型)
二つ目のフェーズは、アンバー組織(順応型)です。この組織体系は、いわゆるピラミッド型の組織構成であり、権力や階級、制度などの概念が組織に組み込まれます。
レッド組織とは異なり、絶対の権力を持ったトップからの指示が絶対です。そのため、組織のメンバーは、自己中心的ではなく、自分に割り振られた役割を果たそうとします。軍隊や政府機関が事例として挙げられるでしょう。
オレンジ組織(達成型)
三つ目のフェーズは、オレンジ組織(達成型)です。この組織体系は、アンバー組織のピラミッド型の階級制度を維持したまま、成果を出せば昇進可能な組織とされています。現代の一般的な企業の多くは、このオレンジ組織に該当します。
成果を上げることが最重視され、メンバーが成果をあげた場合は、「昇進でき柔軟さを生み出す」というメリットがあります。ただ、個々の才能が開花しやすく、イノベーションが生まれやすくなったのですが、長時間労働などの労働問題も起こりやすくなりました。
グリーン組織(多元型)
四つ目のフェーズは、グリーン組織(多元型)です。グリーン組織は、組織のメンバーの主体性を重要視し、現場に裁量を与えるボトムアップ型の組織体系といえます。
メンバー全員が意見を出し合って、意思決定をすることを重視しているので、メンバーにとって、風通しの良い組織といえるでしょう。現場のマネージャーや上司は、決定権を持つ一方で、メンバーにチャンスを与える機会をつくるなどのサポート役に回ります。
しかし、グリーン組織には、意思決定のスピード感が落ち、ビジネスチャンスを逃す可能性が高くなるというデメリットもあります。
ティール組織(進化型)
五つ目のフェーズは、進化型組織であるティール組織です。ティール組織とは、メンバーが主体的に意思決定を行う自律的な組織という意味を持ち、「生命体」とも称されます。
リーダーのみが決定権を持つのでなく、メンバー個人が決定権を与えられるので、合意形成のスピード感が早く、変化に対して柔軟に対応できます。また、自分の目標と自分が組織へ貢献できることが一致しているため、自己成長と組織の成長が同時に可能になります。
ティール組織の実現に必要な要素
エボリューショナリーパーパス(存在目的)
ティール組織を構成する一つ目の要素として、エボリューショナリーパーパス(存在目的)が挙げられます。エボリューショナリーパーパスとは、何のために組織が存在して、将来どのような方向に向かうのかを探求し続けることを意味します。
ティール組織では、経営者があらかじめ定めた目的に従って、社員が働くような従来の組織体系とは違って、時間とともに変化する目的を社員全員で常に探求して共有し合います。そのため、ティール組織では、社員の主体性や当事者意識が強くなります。
セルフマネジメント(自主経営)
ティール組織を構成する二つ目の要素として、セルフマネジメント(自主経営)が挙げられます。セルフマネジメントとは、個人が他者からの指示を待たずに、適切なメンバーと連携を取りながら変化に対応する能力を意味します。
ティール組織では、意思決定や担当業務が個人の裁量に左右されるので、セルフマネジメントは重要です。ティール組織を導入することで、個人のスキルは向上し、組織全体の質が高まるでしょう。
ホールネス(全体性)
ティール組織を構成する三つ目のポイントとして、全体性(ホールネス)が挙げられます。全体性とは、メンバー自身の考え方や感情をオープンにして、組織との一体感が得られることを意味します。
全体性を発揮するために重要なことは、メンバー全員の心理的安全性を保障することです。そうすると、社員全員が自分をさらけ出せる状態になり、個人の個性が最大限尊重されます。ティール組織では、組織内のメンバーのありのままの姿を受け入れてあげることが重要です。
ティール組織の導入に失敗しないためのポイント
ポイント①対話を大切にする
ティール組織の導入に失敗しないためのポイントは、メンバーとの対話を大切にすることです。ティール組織では、リモートワークが実現しやすいメリットがあるでしょう。しかし、リモートワークを実施すると、雑談などの場が生まれにくいので、メンバーのモチベーションが低下することが考えられます。
このような失敗を防ぐために、定期的にメンバー同士が顔を合わせるミーティングなどを実施するなど、メンバーとの時間を大切にする意識を持ちましょう。
ポイント②権限を分配する
ティール組織の導入に失敗しないために、メンバーに権限を分配することも重要です。役職が高い人ほど意思決定に対して、より権限を持っている従来の組織とは異なり、ティール組織は、メンバー個人で対等な権限を持つことが成功の秘訣です。
メンバーに適切な裁量を与えないと、メンバーの仕事に対するモチベーションも低下してしまいます。そうなると、メンバーから批判されてしまい、ティール組織の導入が失敗に終わってしまうので、まずは、ある特定のプロジェクトに関する権限を徐々にメンバーに分配するなど、段階的に導入を進めましょう。
ポイント③一方的な指示や管理は行わない
ティール組織の導入に失敗しないためのポイントは、一方的な支持や管理は行わないことです。ティール組織は、個人が自立していることを前提としています。そのため、上司が部下に指示を出したり、タスクの進捗状況を管理したりすることは望ましくありません。
もし問題が発生した場合は、メンバー全員で相談し合い協力して、問題を解決することが重要です。導入が失敗にならないように、一方的な指示や管理は行わないよう注意しましょう。
ティール組織の具体的な企業事例
企業事例①株式会社ビオトープ
まず、ティール組織の企業事例として挙げられるのは、Webコンサルティングを運営している株式会社ビオトープです。この事例では、目的意識の共有や共通した価値観、社員のオーナーシップ強化などを重視した組織構造でティール組織の導入に成功しました。
採用活動を最も重視しており、組織としての目的や思想をしっかり発信し、「共鳴」する人だけを仲間にするプロセスをデザインしています。
企業事例②株式会社ネットプロテクションズ
次に、ティール組織の企業事例として挙げられるのは、決済サービス事業を展開している株式会社ネットプロテクションズです。この会社は、ティール組織を実現するために独自の人事制度の「Natura」を導入しており、社員の自己実現と社会発展の両立を目的としています。
「Natura」を導入したことで、マネージャーが廃止され、その代わりに各事業部の人材や予算、情報の采配権限を持つ「カタリスト」という役割が新たに作られました。この「カタリスト」になったメンバーは、期が変わるごとに流動的に変化します。
企業事例③株式会社日本レーザー
最後にティール組織の事例として取り上げるのが、レーザー機器の輸入商社である株式会社日本レーザーです。この事例では、大幅な権限委譲で自主経営を実現する体制を確立したことで、日本版のティール組織を実現しました。
取り組み内容は、組織体制を上下関係のないフラットな環境にし、メンバー一人一人の当事者意識の強化を行いました。
ティール組織を導入して組織変革を実現しよう!
これまで、ティール組織の言葉の意味やメリット・デメリットと、ティール組織を実際に導入している具体的な事例を紹介してきました。ティール組織では、メンバーが主体的に働くことができますし、テレワークとの相性がよいです。
しかし、現状、ティール組織を進化させるのに成功した事例は少ないです。今回紹介した内容を踏まえて、自社でもティール組織を導入するかどうか検討してみてください。