マネジリアル・グリッド理論をリーダー育成に活かしたい!
古くから行われてきたリーダーシップ研究は、「リーダーシップは生まれ持った特性」とする、「特性理論」にもとづいて行われてきました。しかし、普遍的な特性の発見にはいたりませんでした。
そこで、1940年代に「良いリーダーの行動パターン」に注目し、誰しもリーダーシップを身に付けられる可能性があるとする、「行動理論」が登場しました。マネジリアル・グリッド理論は、この行動理論のうちのひとつです。この記事では、マネジリアル・グリッド理論とはどういうものか、また、リーダー育成への活用方法を解説します。
また、マネジリアル・グリッド理論の7つのリーダーシップスタイルについても説明しますので、マネジリアル・グリッド理論の実践に役立ててください。
マネジリアル・グリッド理論とは?
マネジリアル・グリッド理論は、1964年にアメリカで提唱されたリーダーシップ理論です。リーダーシップを「人への関心」と「業績への関心」の2軸で捉え、それぞれを9段階で評価して81のグリッド(格子)に分類するものです。ここでは、マネジリアル・グリッド理論の意味やリーダー育成方法への活用について分かりやすく解説します。
マネジリアル・グリッド理論の言葉の意味
マネジリアル・グリッド理論は、アメリカの心理学者R.RブレイクとJ.Sムートンによって提唱された、経営管理者の像を類型化するための方法。マネジニアル(managerial)は経営者、グリッド(grid)は格子という意味の英語の言葉です。
横軸に「業績への関心」、縦軸に「人への関心」を置き、それぞれを9段階に分けて81のグリッド(格子)に分類し、管理者の関心の程度を位置づけます。
この、業績・人への関心の度合いの位置づけによって、1・1型、5・5型、1・9型、9・1型、9・9型と、おおまかに5つの管理者スタイルに分類します。
こうして分類したスタイルによって、近似する管理者スタイルを分析することで、リーダー育成に役立てるのが目的の理論です。
マネジリアル・グリッド理論が生まれた背景
マネジニアル・グリッド理論が生まれた背景には、先行する「ミシガン研究モデル」や「オハイオ研究モデル」の、単純な分類への疑問がありました。こうしたモデルの不十分な点を解消するべく作られたのが、マネジリアル・グリッド理論です。
マネジリアル・グリッド理論もまた、2軸評価をもとにした理論ですが、2軸を9段階で評価し、81のグリッドに分類。さらに5つのスタイルに分類することで、大まかな分類から詳細な分類までが可能となっています。
マネジリアル・グリッド理論の欠点
マネジリアル・グリッド理論は、「業務への関心」と「人への関心」の程度により、81のグリッドでどのようなリーダーかを分類できる理論です。
しかし現実には、理想のリーダー像を示す人材であっても、十分な力量を発揮できていないケースが多くあります。
なぜなら、実際のビジネスシーンでは、どんな部下がいて、どういったタスクをこなすのかなど、外的要因も視野に入れて、取るべき行動を選択する必要があるからです。
こうした部分について、行動理論では不十分であるため、リーダーシップ研究は行動理論から条件適合理論へとシフトしていきます。
マネジリアル・グリッド理論を活用したリーダーの育成方法
マネジリアル・グリッド理論では、業務への関心・人への関心が最も高い(9・9型)がもっとも理想的といわれています。しかし、組織によって、必ずしも(9・9型)のリーダーが最適なのかというと、そうとも限りません。
また、他のスタイルのリーダーが理想のリーダーになれないのかというと、そうでもありません。なぜなら、行動理論では、リーダーシップは行動によって、後天的に獲得するものだからです。
マネジリアル・グリッド理論によって、自分のリーダースタイルを把握し、組織が求めるリーダー像を照らし合わせ、理想的なリーダースタイルに近づいていくことが大切なのです。
マネジリアル・グリッド理論と類似理論との違い
ここでは、マネジリアル・グリッド理論と合わせて語られることの多い、PM理論とSL理論について、マネジリアル・グリッド理論との違いを解説します。
PM理論との違い
PM理論は、リーダーシップ行動理論のひとつで、1966年に日本の心理学者、三隅二不二(みすみじゅうじ)が提唱した理論です。PM理論も、リーダーシップを二軸で分類する点は、マネジリアル・グリッド理論と同様です。
一方が「目標達成機能(Performance function)」、もう一方が「集団維持機能(Maintenance function)で構成されています。二つの能力それぞれの大きさにより、四つのタイプ(PM型、Pm型、pM型、pm型)に分類されます。
PM理論は二軸で4種の方に分類するのに対して、マネジリアル・グリッド理論は、二軸で81種に分類することで、より詳細な分類が可能となっています。
SL理論との違い
SL理論は、1977年にポール・ハーシーとケン・ブランチャードが提唱した理論です。SLとは、Situational Leadership(環境対応型リーダーシップ)をあらわし、チームのメンバーの習熟度や環境によって、リーダーシップのスタイルを変える必要があるという理論です。
SL理論がマネジリアル・グリッド理論やPM理論と異なる点は、SL理論は環境に対応した理論であるという事です。
SL理論では、メンバーの習熟度や環境に合わせて、リーダーシップを「S1・説明型リーダーシップ」「S2・説得型リーダーシップ」「S3・参加型リーダーシップ」「S4・委任型リーダーシップ」の四つに分類しています。メンバーのスキルや状況に合わせて、必要とされるリーダーシップのタイプも変化するという理論です。
マネジリアル・グリッド理論の2つの関心軸
ここでは、マネジリアル・グリッド理論の考え方の基礎となる、2つの関心軸について解説していきます。
関心軸①人間への関心
マネジリアル・グリッド理論が指す「人間への関心」とは、上司や同僚、顧客などを意味しています。これらに対する関心度、「好かれたい」や「表面上の付き合いに留めたい」などのスタンスによって、リーダーシップのタイプを分類しているのです。
関心軸②業績への関心
マネジニアル・グリッド理論が指す「業績への関心」とは、売上や利益のことだけではありません。組織が課題を解決するための取り組みや、目標、成長への欲求などへのスタンスを指し、これにより、リーダーシップのタイプを分類しています。
マネジリアル・グリッド理論の7つのリーダーシップスタイル
マネジリアル・グリッド理論では、二軸によって81に分類したグリッドの四隅と中央で、大まかに五つのスタイルに分類されることが一般的です。
ここでは、さらに二つのスタイルを加えた、七つのリーダーシップスタイルについて解説しますので、リーダー育成の参考にしてください。
リーダーシップスタイル①無関心型
業務への関心も、人への関心も最も低い(1:1型)の放任型リーダーです。与えられた仕事のみを、最小限の努力で済ませようとする傾向があります。保身的で、トラブルなどは極力避け、責任を回避することもある事なかれ主義のリーダーです。
リーダーシップスタイル②カントリークラブ型
業績への関心は低く、人への関心が高い(1:9型)のヒト中心型リーダーです。業績よりも人間関係を重視するため、部下との関係は良好ですが、メンバーの意思を優先し、業務を犠牲にしてしまう可能性があるリーダーです。
リーダーシップスタイル③権威服従型
業務への関心が高く、人への関心が低い(9:1型)の権力型リーダーです。人間関係よりも業務の効率を重視し、命令型のリーダーシップを行います。メンバーの自主性などは考慮しないリーダーシップのため、指示に従うだけのチームとなる可能性があります。
リーダーシップスタイル④チームマネジメント型
業務への関心も人への関心も高い(9:9型)の、マネジリアル・グリッド理論で理想とされるリーダーです。
組織や部下からの信頼も厚く、メンバーの自主性を尊重し、多様な意見を取り入れて業績を上げるための戦略策定を行うことのできるリーダーです。
リーダーシップスタイル⑤中道型
業務への関心と人への関心をバランスよく持つ(5:5型)の妥協型リーダーです。業務にも人間関係にも、ほどほどの関心を持ち、革新的なことには否定的で、現状維持を好む傾向のあるリーダーです。
リーダーシップスタイル⑥温情主義型
温情主義型は、カントリークラブ型(1:9型)と、権威服従型(9:1)を状況によって使い分けるタイプのリーダーです。細かな指示でメンバーを思い通りに動かそうとし、自分に従うメンバーは称賛します。しかし、思い通りにならないメンバーには叱責を与えます。
このようなリーダーでは、メンバーは「表面上は言うことを聞いている」状態となり、本来のリーダーシップとはかけ離れた状態と言えるでしょう。
リーダーシップスタイル⑦日和見主義型
日和見主義型のリーダーは、上記の六つのスタイルすべてを、自分の都合のいいように使い分けるリーダーです。自分の利益によってスタイルを使い分けるため、このタイプのリーダーが組織内にいると、組織やメンバーが振り回されてしまう可能性があります。
マネジリアル・グリッド理論を実践してみよう!
リーダーシップを身に付けようとする人が、どのリーダースタイルに位置しているのかを把握することで、理想的なリーダシップを身に付けやすくなります。ぜひ、マネジニアル・グリッド理論を理解し、組織の中でのリーダー育成に役立ててください。