感染症の拡大を機に、テレワークを導入する企業が大幅に増加しました。テレワークは感染症対策のみならず、労働者の生産性向上や人材確保の面において企業にメリットをもたらします。一方で、チームマネジメントや勤怠管理などの難しさなどデメリットも存在するため、導入に二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。
また、テレワークを導入するか判断する際は、どれだけ費用対効果があるのかを検討することが重要です。
そこで今回は、テレワークのメリット・デメリットを解説するとともに、どのような費用が削減できるのか詳しく見ていくことにしましょう。テレワーク導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。
テレワークの定義と種類
まずはテレワークの定義や類型について知っておきましょう。一口にテレワークと言っても、様々な種類の働き方が存在します。
テレワークとは
テレワークとは、テレ(Tele)とワーク(Work)を組み合わせた造語であり、オフィスなどの現場を離れ、遠方で仕事をすることを意味します。パソコンなどの通信技術を利用し、時間や場所を有効に活用する働き方です。
2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の対策としても注目され、近年急激に人々の間に浸透するようになりました。
テレワークが普及した背景には、政府や自治体の導入促進施策による後押しなども考えられます。
テレワークをする場所
テレワークはインターネット環境さえあれば様々な場所で実現できます。
テレワーク時の勤務形態は主に
(1)在宅勤務
(2)モバイル勤務
(3)サテライトオフィス勤務
この3種類に分けることができます。
在宅勤務は自宅でパソコンなどを使って作業をする働き方のことです。作業時は自分のパソコンのほか、会社で支給されているテレワーク用のパソコンを利用するケースもあります。自宅であれば通勤の必要がないため、社員の生活ニーズを満たしやすい点がメリットです。
モバイル勤務は新幹線などの移動中にパソコンなどで仕事をする働き方で、通勤時間を有効活用することができます。現在多くの公共交通機関がWi-Fiに提供しているため、移動中も仕事をしやすくなりました。
最後に、サテライトオフィス勤務とは、企業が設置したサテライトオフィスで働く方法です。サテライトオフィスは一般的に企業の本社や本拠地から離れた場所に設置されるため、サテライトオフィスから本社とやりとりを行ったり、一人で作業する場合はテレワーク勤務と言うことができます。
テレワークの形態
総務省によると、テレワークは場所や雇用形態により以下のように分けられるということです。
雇用型では主に会社に雇用されている社員が先述の勤務場所に合わせてテレワークで働くことになります。
一方、自営型では個人事業主や小規模事業者がITを活用してクライアントと遠隔で仕事をするケースなどがテレワークと定義されています。
テレワークの普及率
2020年3月から12月まで合計4回実施された株式会社パーソル総合研究所のテレワークに関する調査では、全国2万人の就業者を対象にしたテレワーク実施率の推移が報告されています。
調査の結果を見ると、2020年11月における企業のテレワーク実施者率は24.7%となっており、2020年4月の緊急事態宣言発出後急速に普及したことを確認できます。
一方で、同調査ではワクチン普及後のシナリオについても調査を質問を行なっており、従業員を全員出社させようとする経営層は3割以上と、ワクチン後もテレワーク推進派を上回るという結果も得られています。
このように、テレワークはコロナにより急速に普及したものの、必ずしも肯定的な経営陣ばかりではないことが伺えます。
テレワーク導入による費用対効果を検証
テレワークを導入することで様々な費用が削減できる可能性があります。一方で、ある程度ツール導入などの費用も発生するため、自社の費用対効果を検証してからはじめてみると良いでしょう。
テレワーク導入で削減できる費用
テレワーク導入で削減できる費用としては、以下のような項目があげられます。
特に通勤やオフィス賃料など毎月かかる固定費の削減に大きな効果が期待できます。
テレワーク導入で発生する費用
テレワークを導入することで、以下の費用が発生します。
コミュニケーションツールや勤怠管理システムなどは、新たに導入する場合、費用だけではなくチーム内での活用方法についても共有したり話し合ったりするコストが発生します。
これらのツールをはじめから利用しているチームでは、比較的テレワーク化するための障壁は少ないと言えるでしょう。
テレワークを導入することで得られる企業のメリット
テレワークを導入することで、企業は以下のようなメリットを得ることが期待できます。
- 社員の離職防止
- 人材確保
- 労働生産性の向上
- 感染症対策
社員の離職防止
テレワークは通勤などのストレスをなくし、社員一人ひとりの生活ニーズに応えることができる働き方であるため、離職防止効果が期待できます。
特に子育てや介護などを理由に職場と自宅を往来に負担がかかり、離職してしまうケースが問題となっています。
厚生労働省が実施している「雇用動向調査結果」によると、30代前後の女性ではやく1%が出産や育児により離職しています。テレワークを導入することで男女ともに育児をしながら働くことができるようになるため、社員の離職防止効果を期待できるでしょう。
また、介護離職対策も企業の大きな課題です。総務省が実施している平成29年の「就業構造基本調査」によると、介護や看護を理由に前職を退職した人は1年間で9万9千人にのぼっています。介護離職は前回調査された平成24年と比べてほぼ横ばいで、状況は改善されているとは言えません。
テレワークでは、様々な家庭の事情を持つ社員の生活に対応できるため、離職を防ぐ効果が期待できるのです。
人材確保に有利
テレワークを導入している企業は導入していない企業に比べて人材確保の面で有利な状況にあります。
テレワークが普及したことにより、多くの転職希望者がテレワークを望むようになりました。大手求人サイトでも「テレワーク可」「テレワーク求人」などの項目が目立つようになりました。
エンジニアやデザイナー、マーケターなど多くの優秀な人材がテレワーク環境で仕事をすることを望むようになったことにより、今後もテレワークを継続することを公表すれば、競合他社に比べて優秀な人材が確保できることが期待できます。
生産性の向上
テレワークを導入することで社員の生産性が向上することが期待できます。
総務省が公表している「令和元年通信利用動向調査の結果(概要)」では、テレワークを導入している企業の生産性に関する調査が行われています。
調査委によると、テレワークを導入している企業のうち、モバイル型を導入している企業が63.2%、在宅型が50.4%、サテライト型が16.4%となっており、情報通信業や金融業、保険業などで導入が進んでいる傾向が見られました。
実際にテレワーク導入で仕事に効果があったかどうかを質問した結果、「非常に効果があった」と回答した企業は25.9%、「ある程度効果があった」と回答した企業は61.3%となり、テレワークに効果を感じた企業は合計87.2%となっています。
また、国土交通省が「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」においても雇用型のテレワークを実施している就業者に調査を行っています
調査では、「テレワークは全体的にプラス効果があった」と回答した者は全体の54.7%と高い割合を示しています。
就業者が感じたプラスの効果は、主に「通勤・移動時間の減少」の53.4%、「自由に使える時間が増えた」の50.6%、「生産性向上」の43.5%などがあげられます。
このように、企業側、就業者側ともにテレワークを導入することで生産性の向上がある程度見られるため、導入する企業にもメリットが大きいと考えることができます。
感染症対策
テレワークは感染症対策としても効果が期待できます。
特に、オフィスが狭く、3密を避けられないような就業環境の場合、テレワークを導入することで大きな効果が期待できるでしょう。
テレワークは必ずしも社員全員に導入しなければならないわけではありません。例えば、経理や営業部門など必要な部署のみに時間差出社などを適用し、それ以外についてはテレワークを導入するなど、様々な組み合わせが考えられます。
また、テレワークは先述の通り自宅勤務だけでなく、モバイル勤務やサテライトオフィス勤務なども可能です。
会社にサテライトオフィスがある場合は、近隣に住む社員のみにサテライトオフィスでの勤務を適用することも効果的でしょう。
サテライトオフィスであれば、オフィス内の社員とはオフラインでのコミュニケーションも可能なため、モチベーションやチームワークを維持しやすいでしょう。
テレワーク導入で生じる可能性のある企業のデメリット
テレワークは企業に大きなメリットをもたらすことが期待できる一方で、間違った運用をするとデメリットをもたらす恐れもあります。
ここでは、コミュニケーションや勤怠管理などの問題を取り上げます。
チームのコミュニケーション不足
テレワークによりチームのコミュニケーションが不足してしまうケースも見られます。
合同会社DMM.comが実施した「コロナ禍での会話に関する調査」によると、コロナ前と比べて他人と話す機会が減ったと感じている人は6割近くにのぼっています。
外出自粛を続ける中で、オフィスへの出勤割合も減り、チーム内のコミュニケーションも減少する可能性があります。
テレワークを継続しながらどうチーム内のコミュニケーションを続けられるかがテレワーク導入企業のサステナビリティを考える上で大切な要素です。
勤怠管理
勤怠管理もテレワーク導入企業の課題のひとつです。
特に、これまでアナログな勤怠管理を行っていた企業にとってはシステムを考え直す必要が出てくるでしょう。例えば、髪の帳簿やエクセルて入力などで社員の勤怠を管理していた会社は、テレワーク中にどのように効率的に勤怠をつけることができるか再考する必要があります。
現在、テレワークなどで遠隔にいる社員の勤怠を管理するシステムは多数製品化されており、これらを利用することで円滑な管理が可能になるでしょう。
また、勤怠管理システムはセキュリティ面も重要な予想になります。システムによっては諮問認証や顔認証など生体認証を取り入れており、遠隔でもスマホやPCですぐに打刻が可能です。
テレワークの導入には合わせてこれらの勤怠管理に関する課題も解決しなければなりません。
社員のさぼりへの対策
経営陣であれば、「社員がテレワークでさぼらないか」と気にする方も多いでしょう。
確かにテレワークは他者に見られる機会が少なくなるため、社員も仕事に関する緊張感を失ってしまうかもしれません。
しかし、安易に支給するテレワーク用PCに監視ツールを導入するなどの対策を行ってしまうと、社員には不信感が生まれてしまいます。できるだけ円満なかたちで社員の成果を管理する必要があります。
テレワークを導入する際は、「その時間仕事をしてくれれば良い」という時給制の考えを改めるべきでしょう。
テレワーク中の仕事で得られた結果を正確に管理・分析するなどし、自宅やサテライトオフィスでどのくらい仕事の効率性に変化があったのかを分析することが効果的です。
人はオフィスであっても全ての時間に集中して仕事をしているわけではなく、適度に休憩を挟みながら業務をこなしています。
社員の動向全てを監視しようとするのではなく、あくまで仕事の結果を見て適切かどうか判断しましょう。
テレワークの導入には費用対効果やメリット・デメリットを考えて
テレワークを導入することで通勤費やオフィス賃貸料、残業代など様々な費用を削減できます。テレワーク導入費用と比較し、費用対効果があるかどうか自社のケースに照らし合わせて検討してみましょう。
また、テレワークはメリットだけでなく、デメリットも考えてから導入する必要があります。コミュニケーションや仕事の効率性に問題か結果を常に確認し、すぐに修正できるように評価制度を合わせて整えておく必要があります。