リバース・イノベーションの意味やメリットを知りたい!
企業のグローバル化が進む中で、リバース・イノベーションが注目されています。この方法は現地のニーズを元に開発された製品を輸入する形で、新しい発想を取り入れることができる方法です。そんなリバース・イノベーションのメリットや成功事例を解説します。
リバース・イノベーションとは?
リバース・イノベーションの言葉の意味
リバース・イノベーションの意味から確認しましょう。リバース・イノベーションというのは、先進国企業が新興国や発展途上国に開発拠点を設けて、現地のニーズを基に開発された商品を先進国市場に流通させる戦略のことです。
イノベーションは「技術革新」を、リバースは「逆転」を意味します。先進国企業では気づかなかったニーズを見つけ出せるメリットがあり、新しい可能性を導き出してくれる方法として注目されています。
リバース・イノベーションの生みの親
リバース・イノベーションの考えを生み出したのは、アメリカのダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのビジャイ・ゴビンダラジャン教授とクリス・トリンブル教授です。2人はアメリカのゼネラル・エレクトリックの成功事例を基に、リバース・イノベーションを理論化しました。
グローカリゼーションとの違い
リバース・イノベーションを考える中でグローカリゼーションの意味も重要です。グローカリゼーションはグローバル化と現地化を組み合わせた言葉で、先進国のプロダクトを途上国に向けて仕様変更していく経営戦略を意味します。
そのため、グローカリゼーションの場合は資本や開発拠点は先進国に集まるので、この点がリバース・イノベーションと大きな違いです。このような違いなどもあり、2000年代からグローカリゼーションよりもリバース・イノベーションに移行する企業が増えています。
リバース・イノベーションのメリット
メリット①新興国市場のニーズに合っている
リバース・イノベーションを実施するメリットとして、拠点の変化が挙げられます。多くの企業がグローバル化を進め、多角化を行っているのが現代です。その中で海外でどのような経営戦略を行っていくのかが重要になっています。
以前まで新興国や発展途上国は、先進国によって製品の開発拠点でした。現在では新興国も経済が発展して、新興国自体が消費市場として注目されるようになっています。こういった新興国が消費市場になったことで、現地のニーズに合った製品の開発や展開が必要になったのです。
ところが、宗教や文化の違いによって制約が厳しく、思ったように販売が行えなかったのです。そこで現地で研究や開発、マーケティングを行って、ゼロベースで製品開発を行ったのが成功につながっています。
メリット②成長戦略の一環として活用することができる
かつてのグローカリゼーションでは、先進国で生まれた製品を新興国に合わせて廉価版を展開していました。しかし、この方法では新興国の消費者市場のシェアを奪いきれず、新しい成長戦略が必要になったのです。
新興国特有の事情を踏まえて製品を開発することで、海外進出企業が新しい可能性を得られるようになりました。新しいニーズはグローバル化を進めた先進国にとって、次の成長戦略といえるのです。
このようにリバース・イノベーションは海外需要と国内需要の両方をカバーできる戦略として、成長戦略を成功に導いてくれる方法になります。
メリット③新たな発想や技術を生み出すことができる
リバース・イノベーションの大きなメリットとして、新たな発想や技術を生み出せる点が挙げられます。いままでは先進国が自国で消費することを前提にした製品でした。リバース・イノベーションでは、新興国のニーズに合わせて製品が作られることで、今までには無かった発想や技術が使われています。
また、新興国では一気にイノベーションが起こり、がらりと文化が変わることがあるのです。無名の民間企業が既成概念にとらわれないアイデアを導入することもあり、それが先進国市場でもシェアを獲得することが起きています。このような成功事例がリバース・イノベーションの魅力といえるでしょう。
リバース・イノベーションの日本企業における現状
経済成長に結びつく成果を得ることができていない
日本企業の特徴として、多くを輸出に依存しています。しかし、海外経済の不確実性や新型コロナウイルスの影響もあり、輸出入の実績は好調とはいえません。そこで従来のグローカリゼーションではなく、リバース・イノベーションの導入が進んでいるのです。
新興国や発展途上国の事情から、大型の製品よりも小型化された機器が現地で開発されています。小型化された製品は現地だけでなく、日本においても受け入れやすい製品です。そして、リバース・イノベーションによって生み出された製品が今後の経済成長につながっていくことが予想されています。
しかし、現状はまだまだ経済成長に結びつく成果を得ることができていないため、日本企業はリバース・イノベーションのメリットを浸透させていくことが必要といえるでしょう。
抜本的な意識改革の遅れが目立っている
さきほど紹介したようにリバース・イノベーションは、日本企業にとっても大きなメリットがあります。しかし、そのメリットがまだまだ浸透していないのが現状です。その理由には日本企業の抜本的な意識改革の遅れが関係しています。
保守的な考えや人事が多い日本企業においては、どうしても過去の成功体験から脱却できないのが現状です。グローカリゼーションからリバース・イノベーションに切り替えるタイミングが遅れている企業が多く、機会ロスにつながっているといえるでしょう。
抜本的な意識改革を行うために、組織マネジメントを行い、人事の見直しや人材の開発、経営管理の改善を行うことが重要です。
グローバル人事の導入が進んでいない
日本企業のグローバル化や多角化は少しずつ進んでいますが、まだまだグローバル人事の導入がうまくいっていません。リバース・イノベーションは現地でゼロベースから製品開発を行うため、グローバル人事の導入は必須になります。
現地への権限委譲や人材の採用を進め、ダイバーシティを行っていくことが必要です。日本から現地に派遣される社員のモチベーションアップを含め、グローバル人事について改めて向き合っていきましょう。
日本的慣習が横行している
リバース・イノベーションを進める上では、日本的慣習の見直しが必要です。しかし、現状は日本的慣習が横行しており、終身雇用や年功序列制度が続いています。こういった考えはグローバル人事の導入にも悪影響であり、成果主義などに切り替える必要があるのです。
リバース・イノベーションを成功に導くためにも、日本的慣習を見直して、グローバル化を進めましょう。後ほど紹介する成功事例を参考に、どのようにリバース・イノベーションやグローバル化に切り替えていくのかを参考にしてください。
リバース・イノベーションで取り組むべきこと
グローバル人事制度を構築する
日本企業の現状を踏まえて、リバース・イノベーションで取り組むべきことを解説します。リバース・イノベーションを成功に導くためにも、グローバル人事制度の構築は早急の課題です。
グローバル人事が構築されていないと、現地人材のモチベーションを維持することができなくなります。日本のような年功序列制度や終身雇用制度は海外では少ないため、成果主義を導入して、有能な人材を雇用していきましょう。
現地ニーズを明確にする
新たな消費者市場である新興国や発展途上国の現地ニーズを明確化してください。現地でマーケティングをしっかりと行い、現地社員とも話し合いを行いましょう。その上で、現地の文化をよく理解し、宗教や慣習などをよく理解する必要があります。
若手や中堅の日本従業員をグローバル化し、現地の人と密接に関わることで、隠れているニーズを発見することもできるでしょう。
組織の意識を抜本的に改革する
リバース・イノベーションの効果を高めるためには、組織の意識を抜本的に改革することが必要です。現代社会において消費者のニーズや価値観は多様化しており、ITやAIの導入によってライフサイクルのスピードも上がっています。
競合他社に負けない新鮮さを持ち続けるためには、リバース・イノベーションで新しい発想や技術を取り入れる必要があるのです。日本人的感覚で開発や企画を行うだけでなく、現地の人材に権限委譲を行ってイノベーションを起こしましょう。
そのためにも、組織の意識を抜本的に改革することが求められます。意思決定のプロセスや承認課程など様々な部分で見直しを行っていきましょう。いままで常識と思っていたことを見直し、成功事例などを参考にして改革を行ってください。
リバース・イノベーションの注意点
注意点①既存の戦略やセグメントを再利用しない
リバース・イノベーションを導入する上で注意したいのが、既存の戦略やセグメントを再利用しないことです。新興国で事業を行うときに、コストカットのために既存の製品などを応用したい、と考えることがあるでしょう。
しかし、こういったことを行うとリバース・イノベーションの目的である、現地の新しい発想やニーズを活かすことができません。あくまでゼロベースで現地のニーズにあったものを開発しましょう。
注意点②価格を下げるために機能性をカットしない
安易に価格を下げるための機能カットは危険です。顧客満足度を下げる原因になり、現地の企業に対するイメージを損なう原因になります。現地で安価に製造されている製品を参考に、改めてコストカット戦略を考え直してください。
注意点③新興国の文化や技術を無視しない
決して新興国や発展途上国の文化や技術を無視しないことです。現地の人たちのルールや考えを尊重し、宗教な部分も含めて文化を理解しましょう。現地の人の文化や技術力を気づかないうちに下に見るような心理状況にならないことが大切です。
注意点④新興国で売れた商品を先進国で流通させない
新興国で売れた商品を先進国で流通させるかどうかを丁寧に検討を行ってください。安価な製品を先進国で流通させると、高価で利益率の高い製品が売れなくなる可能性があります。自国で流通させる場合は付加価値を付けて、値段調整を行うことがおすすめです。
リバース・イノベーションの成功事例
成功事例①株式会社LIXIL
住宅設備事業の株式会社LIXILは、ベトナムで循環型無水トイレシステムを開発しました。現地のハノイ建設大学と実証検証を進め、現在ではケニアやインドネシアでも使用されるようになったのです。また、ベトナムでの設計は現地の人が全て担当しています。
成功事例②デンソー株式会社
自動車部品メーカーのデンソー株式会社は、現地人材で構成された開発拠点を設置しています。現地ニーズのヒアリングを実施し、新興国の交通事情に考慮したバイク向けアイドリング機能を開発しました。また、その他に現地事情に入りいょした、オート機能付きカーエアコンも人気を博しています。
成功事例③本田技研工業株式会社
ホンダは以前から海外でも人気の高いメーカーでしたが、2000年に中国企業に出資を行って、生産コストを抑えたスーパーカブの生産拠点を作りました。技術力のある新興国企業に投資を行う成功事例の代表格となっており、自国の生産技術向上にも役立つリバース・イノベーションを行っています。
成功事例④米ゼネラル・エレクトリック
米ゼネラル・エレクトリックはリバース・イノベーションを生み出した成功事例です。リバース・イノベーションの概念が無かった頃に、新興国に開発拠点を移した企業になります。
中国やインドに開発拠点を移し、小型軽量で低価格な音波診断装置を開発しました。この成功事例が現在のリバース・イノベーションの基礎なので改めて参考にしましょう。
成功事例⑤タタ・モーターズ
インドのタタ・モーターズは、世界一安価と言われるタタ・ナノを開発した自動車メーカーです。日本円に換算して約20万円ほどの価格で発売されたタタ・ナノは大ヒットしました。
その後、一部の改良を加えてアメリカやヨーロッパで発売されており、リバース・イノベーションの成功事例として注目されています。こういった一部改良を行っている点は、先ほど紹介したリバース・イノベーションを行う上での注意点につながるポイントです。
リバース・イノベーションを前提に海外事業計画を立てよう!
リバース・イノベーションについて解説しました。新興国や発展途上国のニーズにあわせて、ゼロベースで現地で開発や販売を行い、その技術や手法を先進国で展開するのがリバース・イノベーションです。
グローバル化が求められている現代において非常に効果が期待できる手法なので、海外事業計画を立てるときにリバース・イノベーションを導入して、新しいニーズを取り入れた製品開発を行っていきましょう!