エンプロイー・エクスペリエンスを向上させたい!
人口減少による人手不足が社会問題となっている現代の日本において、従業員の能力を最大限に高める取り組みとして従業員の経験価値であるエンプロイー・エクスペリエンスが注目されています。
エンプロイー・エクスペリエンスを人事評価制度に活かして向上させ、従業員エンゲージメントを高め優秀な人材の離職を防ぐことで、企業の安定した健全な経営を支え、業績を伸ばしていきましょう。
エンプロイー・エクスペリエンス とは?
企業内で得られる経験価値のこと
従業員一人一人が働くことを通して企業や組織の中で体験する全ての経験価値の事をエンプロイー・エクスペリエンス と言います。従業員エンゲージメントや従業員満足度といった指標を始め、従業員の健康状態や組織の一体感など従業員が企業や組織の中で経験する印象や影響を包括した考え方です。
企業と従業員とのあらゆる接点において、エンプロイー・エクスペリエンスは発生します。エンプロイー・エクスペリエンスの概念は、入社前の採用から入社後の研修、配属、移動、退職まですべてのプロセスにおいて、存在し、職場環境や働き甲斐など金銭価値以外の要素での従業員のエンゲージメントを向上させる方策と言えるでしょう。
エンプロイー・エクスペリエンスの歴史
マーケティング業界では、製品のロイヤリティを物質的な価値以外の快適さや雰囲気の良さなどの心理的、感覚的な価値によって向上させるカスタマーエクスペリエンスの概念が以前から広まっていました。この概念を人事業界でも適用しようとして生まれたのがエンプロイー・エクスペリエンスです。
そして、2015年から2016年頃にかけてエンプロイー・エクスペリエンスという言葉がHR系の議会や経営雑誌などでトレンドキーワードとして取り上げられたことにより、人事業界での認知度が高まりました。
また、バケーションレンタルのオンラインマーケットプレイス企業であるAirbnbが人事部門の名称を「エンプロイーエクスペリエンスチーム」と変更したことも話題となり、エンプロイー・エクスペリエンスというワードが注目されるようになりました。
人事部門の重要な立場を担っている
エンプロイー・エクスペリエンスの向上は、社風の改善や人材の採用力の向上に直接結びつきます。また、企業の従業員を顧客と捉えた時、人事部門の業務はサービスとされるため、人事部門が従業員のエクスペリエンス向上に取り組むことは、商売におけるサービスと考えられます。
そのため、エンプロイー・エクスペリエンスの最大化は人事部門の重要な立場を担う取り組みであると言えるでしょう。
エンプロイー・エクスペリエンス が注目される理由
従業員の経験や体験であるエンプロイー・エクスペリエンスは、近年中小企業から大手企業まで数多くの企業が活用しています。その理由を解説しましょう。
発想自体に注目が集まっているため
エンプロイー・エクスペリエンスの発想は、先述のようにカスタマーエクスペリエンスの概念からきています。技術革新やSNSの普及によって、サービスやツールの使いやすさの良さが売上に大きな影響を及ぼすようになったことから、経験価値であるエクスペリエンスが注目されるようになりました。
このエクスペリエンスの発想は商品だけでなく総合的に注目を集めるようになり、人事におけるエクスペリエンスであるエンプロイー・エクスペリエンスの発想も従業員のエンゲージメントを高めることができるとして注目されています。
企業の差別化に大きく貢献するため
良いエンプロイー・エクスペリエンスは、働きやすい会社の社風や優れた企業や組織の文化の形成に貢献すると言われています。
競争の激しい現代社会において、一貫性のある優れた組織文化を持つ企業は、良好な顧客体験を提供でき、競合他社との差別化を図れるでしょう。そのため、エンプロイー・エクスペリエンスは企業の差別化に大きく貢献します。
しなやかな組織作りが必要とされているため
現代の日本ビジネス界は、変化が激しく将来の予測が難しいVUCAの時代です。そのため、従業員が一体となって共通の目標に向かって業務を遂行し、複雑で目まぐるしい変化に対応するしなやかな組織づくりが重要視されています。
良好な顧客体験を提供でき、継続的に変化に適応できる企業文化を醸成するためには、従業員一人一人のモチベーションや行動変容が不可欠なため、人事におけるエンプロイー・エクスペリエンスが注目されていると言えるでしょう。
働き方改革を実施する企業が増えているため
労働人口の減少に伴う人手不足が課題の現在、多くの企業が働き方改革を実施し始めました。エンプロイー・エクスペリエンスの発想は従業員の心や体の健康や働き甲斐の向上に結び付くため、働き方改革の観点からも重要です。そのため、エンプロイー・エクスペリエンスの向上が働き方改革の評価として注目されています。
ミレニアル世代の採用と定着に寄与するため
エンプロイー・エクスペリエンスが良好な企業は、優秀な人材が集まりやすい傾向にあります。特に幼いころからインターネットに触れてきたミレニアル世代と呼ばれるテクノロジーの進化に適応できる層の従業員は、自分の能力を発揮できしっかり評価してもらえる企業へ転職を考えるでしょう。
そのため、ミレニアル世代の採用と定着のためには、エンプロイー・エクスペリエンスの観点で企業制度の改革をし、従業員満足度の高い企業になることが重要です。
エンプロイー・エクスペリエンスを向上させるポイント
ポイント①従業員サーベイを実施する
エンプロイー・エクスペリエンスを向上させるには、組織と従業員との信頼関係の構築が重要です。そのためには、従業員の不満や要望など従業員満足度に影響を与える要素を中心にしたアンケートである従業員サーベイを行うとよいでしょう。
従業員サーベイを実施することで、労働環境の問題や働きやすい職場への改善点を見つけられ、それに適切な対応をすることで従業員の企業に対する満足度や愛着を高めることができます。
ポイント②エンプロイージャーニーマップを作成する
労働市場が売り手市場の現在、従業員はその企業でそのような経験が得られ、それがどのように評価されるかを重視して求人に応募します。
そのため、従業員が求人に応募してから退職するまでに企業の中で体験するであろう経験価値を、時系列順に可視化したエンプロイージャーニーマップを作成し、その企業で得られるエンプロイー・エクスペリエンスを具体的に理解することが必要です。
ポイント③労働環境を整備する
エンプロイー・エクスペリエンスを向上させるためには、従業員が心身共健康に働ける労働環境を整備することが大切です。
健康的に働ける労働環境を整えることで、従業員の生産性やモチベーションがアップし、企業の業績を伸ばすことに繋がるでしょう。
エンプロイー・エクスペリエンスの企業事例
企業事例①Airbnb
アメリカに拠点を置き、人事部門の「社員が選ぶ企業ランキング」で一位を獲得した世界最大手の宿泊予約サイト運営会社であるAirbnbでは、人事部門の呼称をエンプロイー・エクスペリエンスとし、従業員が高いパフォーマンスを発揮できる従業員体験を設計しています。
パワーアップした人事部であるエンプロイー・エクスペリエンスは、従業員一人一人がパフォーマンスを上げられるように、オフィス環境や人事制度を整え、研修やキャリア開発、目標達成に向けての体験、健康管理まで多岐に渡ってサポートします。
企業事例②freee株式会社
中堅企業向け事務管理クラウド会計サービスを開発、運営するfreee株式会社には、「メンバーサクセスチーム」と呼ばれる総務人事部門が存在し、付加価値的な業務や自身の成長のために多くの労力を割くことが本質的な価値のある仕事であると定義し、従業員に周知しています。
週1回30分の面談を行うことでキャリアや働き方について上司と話し合う機会を設け、会社のビジョンを共有しつつ従業員の働きやすい環境づくりを整えることで従業員エンゲージメントを向上させています。
企業事例③株式会社おかん
個人向けお惣菜仕送りサービスや法人向け福利厚生サービスとして「ぷち社食」を手掛ける株式会社おかんでは、経営者や総務・人事担当者を対象に「エンプロイー・エクスペリエンスサミット」というイベントを企画・実施しています。
イベントでは自社が行ってきた健康経営支援や社内ネットワークの構築などのエンプロイー・エクスペリエンスに関する取り組みや価値観を共有しました。これにより、社外へのエンプロイー・エクスペリエンスの概念を広めると共に、社内でも働きやすくモチベーションがアップする職場環境について考える機会になったでしょう。
企業事例④Adobe
ソフトウエア開発会社であるAdobe株式会社にも、会社の中核となる価値観であるコアバリューを反映した活力あふれる職場づくりに重要な役割を果たす人事チーム「エンプロイー・エクスペリエンス」が存在します。
Adobeでは出産有給休暇や産後有給休暇を整備し、マネージャーと従業員が定期的に面談を行って成長度合いのチェックやキャリア相談を行うチェックイン制度を設けました。これらのエンプロイー・エクスペリエンスの価値観は従業員だけでなく採用面接でも伝えられ、企業文化を採用の場面でも理解してもらうように努めています。
エンプロイー・エクスペリエンスを人事評価制度に活かそう!
テクノロジーが急速に進み不安定で複雑性が高く将来の見通しが難しいVUCAの時代である現代社会において、従業員エンゲージメントを高めて離職率を低下させ優秀な人材を確保するためには、従業員の経験価値であるエンプロイー・エクスペリエンスの考えが重要視されるようになってきました。
エンプロイー・エクスペリエンスの概念を人事評価制度に活かすことで、従業員のモチベーションを上げて生産性を高め、企業の業績をアップして成長に結び付けていきましょう。