配置転換の意味や目的は何か?
配置転換とは、同一の企業内において職務配置や勤務場所を変えることをいいます。配置転換を行うときは、社員の事情も考慮しつつ、メリットの大きい変更を実施する必要があります。
この記事では、配置転換の知識を深めたい方に向けて、配置転換を設定する目的やメリットとデメリット、正しい手順などについて解説しています。合わせて、配置転換を実施する際の注意点やトラブルに関する判決事例も紹介するので、ぜひ今後の参考にしてください。
配置転換とは?
職種や勤務地などを長期間にわたって変更すること
配置転換とは、同一の企業内で職種や就業場所(勤務地)、あるいは職務内容などを長期間にわたって変更することを指します。略して「配転(はいてん)」と呼ぶことも多く、人事異動の一つとされています。
企業には社員に対する人事権があり、「配転命令権」を行使できます。しかし、配転命令権はあくまでも就業規則などの範囲内でしか行使できない権利なので、雇用契約に反した配転命令は無効化されます。
中には、配置転換を人事異動と同じニュアンスで使用する企業もあります。後に紹介しますが、人事異動には配置転換のほかにも「転籍」や「出向」といった言葉があり、「採用」「昇格」「昇進」なども人事異動に含まれるので、混同して使用するのは避けた方がよいでしょう。
人事異動との違い
配置転換は人事異動の一種といわれています。人事異動とは、企業の命令に従って社員が配置や地位、勤務状態などを変更することを指します。配置転換をはじめ、「昇進、昇格」「降格、降職」「転勤、転任」「出向」「役職への任命、解任」「解雇、免職」など、人事に関する変更点のほとんどは人事異動とされることが一般的です。
転籍との違い
転籍とは、企業との間で現在の労働契約を終了させて、新たに他の企業との間に労働契約の関係を成立させて、他企業の業務に従事させる目的の人事異動をいいます。
配転については、直接の根拠法令はなく,労働契約や就業規則の規定によるか,個別の合意によって行うことになります。転籍については、法的に労働契約の合意解約と新たな労働契約の締結,または労働契約上の使用者の地位の譲渡により行うことが可能であり,いずれも従業員の個別の同意が必要です。
出向との違い
人事異動の一種である出向とは、現在就業している会社に在籍したまま、ポジションを変えずに他の会社で働くことを意味します。配置転換との違いは、就業場所が現在所属している会社なのか外部の会社かの違いになります。
出向は現契約会社と、雇用関係を保ちつつ、外部の会社で働くことが要件となります。また、出向を使用する主な目的として、関連会社への従業員の人材育成や技術指導などさまざまあります。
配置転換の目的
目的①適材適所を実現するため
配置転換の目的の1つ目は、従業員の適材適所を実現するからです。ある1つの業務について、得意・不得意は人によってわかれますし、その業務の適正があるかどうかを判断するには、見極める時間が必要です。とくに新卒社員の配属先が適材適所であるかは、一定の期間が経過しないことにはわかりません。
社員の業務の向き・不向きは、後々判明することがほとんどです。そのため、従業員が本来のポテンシャルを発揮できそうな部門へ配属する目的で配置転換が行われます。
目的②組織を活性化させるため
配置転換の目的の2つ目は、会社組織の活性化につながるからです。従業員は長期間継続して同じ場所で同じ仕事をすると、仕事への緊張感もなくなりますし、人間関係のなれ合いによって組織内の人間関係が悪化する可能性があります。
そこで、配置転換を行うと、組織の人間関係を新しくなって職場環境にも緊張感が生まれます。それによって、組織が活性化するようになります。
目的③人材を育成するため
配置転換の3つ目の目的は、人材を育成するためです。配置転換を行うことで、さまざまな仕事を経験することができるため、従業員のスキルが向上し、会社にとって有益な人材が増えることになります。
優秀な人材を育成したいならば、できるだけ早期の段階から配置転換を行うと、従業員の成長を促すことができるでしょう。中には配置転換をした後に、従業員の才能が開花して飛躍するケースもあります。
目的④事業活動の変化に対応するため
配置転換の4つ目の目的としては、「事業活動の変化に対応するため」という理由が挙げられます。インターネットの普及によって、現社会のビジネスのスピードやレベルは、過去と比べものにならないくらい速いペースで進歩しています。そのため、競合との競争に打ち勝つには、新しい事業活動が必要となります。
適性のある人材を配置転換することで、その部門での新規プロジェクトの立ち上げがスムーズになります。 もし、新たに利益を生む新規事業が軌道に乗れば、経営基盤も強固になります。
配置転換のメリットとデメリット
メリット①アイディアが生まれやすくなる
配置転換のメリットの1つ目は、アイディアが生まれやすくなることです。新しい人材は配属先の組織の雰囲気や考え方に固執していないので、職場環境に新しい変化をもたらします。
変化の激しい現代社会なので、生産性が高くなるアイディアやイノベーションが重要視されます。配置転換を行うことによって、仕事の仕方が変化し売上が伸びるというメリットも可能性として考えられます。
メリット②マンネリ化の防止に繋がる
メリットの2つ目は、マンネリ化を防止できることです。どんな環境のなかでも、従業員や仕事内容が変わらないとマンネリ化するものです。マンネリ化を防止する策として、配置転換が非常に有効な手法であり、メリットを期待できます。
定期的に配転を行うことで、社員は新たな業務内容を覚えないといけないので、仕事に対して緊張感が生まれ仕事に没頭することでしょう。また、何かアクシデントが起きてしまった場合、業務について詳しい人材が増えることで、その問題について対処しやすいというメリットもあります。
ただ、一時的に従業員のモチベーションが低下してしまうというデメリットもあります。ただ、複数の従業員のスキルが向上するので、会社全体として生産性が高くなるというメリットもあります。
デメリット①モチベーションが低下する可能性がある
配置転換はメリットも大きいですが、デメリットについても考慮しなければなりません。配置転換を行うデメリットの1つ目は、従業員のモチベーションが低下する可能性があることです。配転された先で業務が合わなかったり、人間関係になじめない従業員は仕事のモチベーションが下がります。
最悪の場合、配置転換が原因で有能な人材が退職を検討してしまうケースがあるので注意が必要です。そうなったら、会社としてデメリットが大きすぎます。このような最悪な事態を回避するために、日頃から従業員とのコミュニケーションを取って、仕事のストレスなどを話し合う環境を整えることが大切です。
デメリット②一時的に生産性が下がってしまう
デメリットの2つ目は、一時的に生産性が下がってしまうことです。配置転換を検討する場合、当然前の仕事の引継ぎが必要であり、後任の従業員が仕事を覚えるまで時間がかかります。また、配置転換先の新しい仕事を覚えるまでに時間がかかるという、デメリットがあります。
よって、会社全体を考えると、配置転換をした後は、一時的に生産性が下がる傾向にあります。生産性を下げないためにも仕事環境でのサポートを充実させるのがよいでしょう。
配置転換の正しい手順
配置転換の手順①従業員に内示する
まず初めに、配置転換を予定している従業員に対して内示する必要があります。上層部や直属の上司から口頭またはメールで通知するのがよいでしょう。
とくに法的な決まりはありませんが、転居の有無や業務の引継ぎなども考慮して内示の時期を設定するようにしましょう。正式な辞令の2カ月前には内示を出すのが一般的です。
配置転換の手順②役職への任命と実施
次に、役職への任命を従業員に伝えて、配置転換を実施します。その際に、辞令文章を作成・交付する必要があり、辞令文書には、「現部署の解任日」と「新部署への異動日」が同じ日になるよう記載しましょう。
また、配置転換の辞令は、従業員の同意がなくても発令が可能となっています。ただ注意点として、配置転換の辞令を出すにあたり、所属する期間に空白が生まれてはいけません。配転後には、配置転換を実施した効果を検証することが重要であり、従業員を気にかけて、従業員が安心して働ける環境を保ちましょう。
配転は会社からの命令ですが、手順を間違えると、従業員との間に思わぬトラブルが発生してしまいますし、実際に配置転換によるトラブルの事例も数多くあります。配転を実施する場合は、正しい手順をしっかり把握しておきましょう。
配置転換を行う際の注意点
注意点①就業規則に明示する必要がある
配置転換の注意点の1つ目として、あらかじめ就業規則に配置転換について明示する必要があります。配置転換は就業規則に記載されている場合のみ、配転命令権を従業員に対して行使できます。
もし、就業規則に配置転換について記載されていない場合、従業員は配置転換の命令が出されても拒否できます。なので、必ず就業規則に配置転換について記載するようにしましょう。
注意点②パワハラと判断されるケースがある
配置転換の注意点の2つ目として、パワハラと判断されるケースがあります。以下の4つのケースに該当すれば、就業規則に配置転換が記載されていたとしてもパワハラで無効となるケースがあります。
1つ目は、妊娠や出産を機に閑職へ追いやること、2つ目は、配置転換を拒否した従業員への嫌がらせすることです。3つ目としては、配置転換を無理に要求することです。4つ目は、従業員の個々の事情に配慮せずに配置転換をすることです。
注意点③従業員が拒否できるケースもある
配置転換の注意点の3つ目は、従業員が拒否できるケースがあることです。先ほど紹介したとおり、就業規則に配置転換が記載されていても無効になることがあり、配置転換は従業員への不利益があるか、配置転換をする際の不当な動機がないか、人員の選択が合理的であるかなどを考慮して判断されます。
また親の介護や子育てが必要な場合は、休業法の規定も関わることがありますし、専門職として採用されたのに、経験のない他の職種に配置転換されることでも無効になるケースがあります。
配置転換のトラブルに関する判決事例
判決事例①東亜ペイント事件
配置転換のトラブルに関する判決事例を2つ紹介します。これは、頻繁に転勤を伴うX社で営業担当者として新規大卒で採用され、約8年間、大阪近辺で勤務していた従業員Aさんの事例です。Aさんは、神戸営業所から広島営業所への転勤の内示を家庭の事情という理由によって、拒否し続いて名古屋営業所への転勤の内示にも応じませんでした。
そこで、X社は「就業規則の所定の懲戒事由に該当する」としてAさんを懲戒解雇しましたが、Aさんは転勤命令と懲戒解雇の無効を主張して提訴しました。
結果的に最高裁では、「転勤命令と懲戒解雇は有効であった」という判決が出されました。就業規則に配置転換について記載があり、現に転勤に応じる従業員が行われている状況下において個別の合意は不要という判断であり、会社側が正当であると評価された事例です。
判決事例②ネスレ日本事件
この事例は、姫路や霞ヶ浦に工場を持っている兵庫県にある会社Yの事例です。会社は経営合理化のために従業員Bさんが従事していた工場(兵庫県)の係を廃止することになって、Bさんの同じ係の従業員全員を茨城県霞ヶ浦の工場に配置転換させようとしました。
しかし、Bさんの妻は病気で、実母も介護が必要な状態にあることから配置転換を拒みました。しかし、会社側が受け入れなかったので、Bさんは転勤命令の「効力停止の仮処分」を申請しました。
配置転換の命令当時の原告らの家族介護の状況などを考慮すれば、転勤によって受けるデメリットは非常に大きいものであるとされました。そして、この配置転換は、著しくデメリットを負わせるもので、「配置転換命令権の濫用」にあたり、無効であるとされました。また、その後、会社側は取り消しを求めて控訴したという事例です。
配置転換は人材育成やシステムの見直しに必要不可欠!
これまで、配置転換を設定する目的やメリットとデメリット、実際のトラブルとなった事例などについて解説してきました。配転を検討する場合、その動機や目的を明確にする必要があります。
従業員が新しい物事を挑戦するための人事異動のシステムを見直し、適切なサポート体制を構築することが大切です。そして、正当な配置転換を行うためにも、今回紹介した注意点や判決事例をよく理解して、配置転換をする際の参考にしてください。