リアル・オプションを企業の成長戦略に活かしたい！
本記事では、リアル・オプションについて紹介します。リアル・オプションは、資産運用や投資などの金融工学における事業評価に使われる手法です。リアル・オプションとNPV分析の違いや、具体的な経営戦略についてまとめました。
また、リアル・オプションを経営戦略に活かした具体例や、学べる本なども掲載しているので、参考にしてください。
リアル・オプションとは？
まずは、リアル・オプションについて紹介します。リアル・オプションは、事業の将来性を図るために重要な経営戦略です。また、オプションの言葉の意味やボラティリティーとの関連性についてもまとめました。
事業の将来性を測る評価手法のこと
リアル・オプションは、事業の将来性を確かめるために、金融工学を使って企業を評価する手法です。企業の不安定な事業に対して、将来性があるかを見極めます。将来に対して柔軟な対応が難しい事業よりも、柔軟性がある経営の方が、投資家からの評価が高いです。
投資家や株主からの評価が高くなると、事業が優位になるので、経営戦略がしやすいです。このように、将来に対して事業の評価を行えるリアル・オプションは、利点が大きく、日本でも採用する企業が増えています。
リアル・オプションが活用される場面
リアル・オプションは、様々な事業の評価が行えるので、多くの企業が活用しています。リアル・オプションは、企業内のプロジェクトや事業が進んでいても、活用できます。事業の環境に応じた経営判断をしておくと、将来的にぶつかる問題に対して、柔軟な対応ができるでしょう。
そのため、大規模なプラント建設や資源開発前の土地の取得、さらにリース時など様々な場面で使われます。また、事業の目標を達成するための業務の拡大や、新規事業への追加の投資判断でも活用します。
リアル・オプションが普及した背景
リアル・オプションは、将来の事業に対して価値をつけて、経営の意思決定を柔軟に対応するために普及しました。経済のグローバル化や技術の発展が進んでいく中、異業種が新規で事業を立ち上げるケースが多くなりました。企業は今までの経営では、確実に利益を設ける事が難しいです。
将来的にもビジネスを続けていくためには、柔軟性の高い意思決定が必要です。しかし、今まで使われてきたNPV分析では、将来に対して不確実性の高い事業の成長を計算する事が出来ませんでした。それを解消するための手法がリアル・オプションです。
リアル・オプションを活用すると、経営や事業に対し、追加投資や運営の可否の判断ができます。
「オプション」の言葉の意味
オプションとは、通貨や株、有価債券など一定の期間内に決められた価格で、売却できる事を指す金融用語です。また、上場していない企業は、役員や従業員があらかじめ決められた価格で、自分の会社の株を購入できる権利があります。
エンジェル投資家と呼ばれる人たちは、上場する前の企業の価値を、現在のキャッシュフロー（お金の流れ）で評価しません。エンジェル投資家は、投資したい企業の成長性を見て、株の購入権を取得します。そして、企業価値が高まり、上場した企業の株に対して、売買権を得る事ができます。
「NPV分析」との違い
NPV分析は、投資によってどれだけの利益が得られるのかを示す指標です。主に、投資に対しての意思決定をする際に使われます。一般的に組織のキャッシュフローと年数、割引率を決定して、対象の事業の評価を行います。
割引率は、将来の事業に対してのリスクも反映されるので、定量的な評価ができるため利用する企業が多いです。しかし、収益化出来ない事業に対しての将来性を見極めるのが難しいです。ビジネスの市場環境が確定してからでないと投資判断ができません。
そのため、事業の評価方法としては限界があると感じている企業が増えています。
「ボラティリティー」との関連性
ボラティリティーとは、価格の変動の度合いを示す言葉です。ボラティリティーが高ければその商品のリスクが大きく、低ければ、変動が小さい事が分かります。NPV分析では、ボラティリティーの高さは、事業にリスクがあると判断されてしまい、投資を見送られます。
その一方で、リアル・オプションでは、ボラティリティーが高いと、将来性や可能性があると評価される事が多いです。そのため、同じボラティリティーの数値でもNPV分析では評価が低く、リアル・オプションでは、継続を続行するといった結論がでます。
リアル・オプションを実施する際は、ボラティリティーを活用して、将来の事業価値の意思決定をしっかり決めましょう。
リアル・オプションのメリット
次は、リアル・オプションのメリットについて紹介します。リアル・オプションは、企業の不確実性に対応でき、柔軟性のある事業が可能です。また、新規事業の立ち上げを軽減する事ができます。
メリット①不確実性に対応することができる
リアル・オプションは、不確実性のある将来に対応する事ができます。ビジネスを運営していく上で、将来のリスクに対してどのように行動するのかを考える必要があります。そして、事業やプロジェクトをしっかり考えて、投資が可能なのかの判断も重要です。
今までは、このような課題に対してNPV分析のみでしか解決できませんでした。しかし、リアル・オプションを活用する事で、不確実性な事業にも対応ができるようになりました。リアル・オプションは、NPVと同様に将来のキャッシュフローを現在の価値に算出できます。
メリット②柔軟性のある事業立案が可能になる
リアル・オプションを実行すると、柔軟性のある事業の立案が可能です。現在では様々な企業が、自分では扱っていない商品の開発や販売を行っています。
そのため、現代のビジネス業界では、柔軟性のある事業が多いです。事業を立ち上げても、現時点で収益化が難しい場合は、リアル・オプションを実行して価値を向上させましょう。
メリット③新規事業立ち上げのリスクを軽減することができる
リアル・オプションを実行すると、新規で立ち上げた事業のリスクを減らす事ができます。リアル・オプションは、将来の選択肢を増やせるため、失敗した際の対応力が上がります。失敗しないためには、新規事業に一気に投資するのではなく、徐々に増やしていくと良いでしょう。
そして、事業の戦略を最初から決めるのではなく、状況に応じて方針を変えられるように柔軟性があると良いです。また、リアル・オプションは、衰退事業の参入を防ぐ効果もあります。
リアル・オプションを意識すると、事業の導入期や成長期の見える化ができるので、新規事業を立ち上げる際に役立ちます。
リアル・オプションを活用した具体的な経営戦略
次は、リアル・オプションを活用した経営戦略を紹介します。デシジョンツリーによる分析や、段階的な投資判断など、様々な戦略があります。
経営戦略①デシジョンツリーによる分析を行う
リアル・オプションを実行する際は、初めにデシジョンツリー分析を行うと良いでしょう。デシジョンツリーは、事業にとって重要なポイントを抜き出す必要があります。
リアル・オプションを行うには、重要なポイントを抜き出して作成すると、派生する選択肢が増えます。そして、その選択肢が多いほど柔軟性が高い事業と言えるでしょう。
経営戦略②生産拠点や設備をリースにする
リアル・オプションを行う際は、生産拠点や設備のリースを考えると良いでしょう。生産する拠点を購入してしまうと、利益が得られなかった際に、莫大な負債を抱え込んでしまいます。しかし、リースにして設備を整えると、撤退する際の判断がしやすくなるでしょう。
また、リースでの場合は、設備や生産拠点の変更や改善が簡単にできるため、物事を柔軟に対応できます。
経営戦略③段階的な投資判断を行う
リアル・オプションをデシジョンツリーで選択肢を増やしたら、段階的な投資判断を行いましょう。1度ですべての投資を行うと、リスクが高く、柔軟性が無くなります。
段階的な投資を行っていく事で、リスクや不確定要素が発生しても、その都度対応ができます。予算を一気に使い果たさないで、少しずつ使いましょう。
経営戦略④事業シナリオの修正を行う
リアル・オプションで経営戦略を立てる場合、事業の修正を考えましょう。事業のシナリオの修正ができるように、設定しておくと上手くいかなかった時に、すぐに対応できます。
そのためには、デシジョンツリーを細かく書き込んでおきましょう。しかし、事業が最初の目的からズレてしまわないように注意が必要です。
リアル・オプションの活用事例
次は、リアル・オプションの活用事例について紹介します。リアル・オプションは、不動産や資源開発の延期判断やオペレーションの調整などに活用されています。
活用事例①不動産や資源開発の延期判断
リアル・オプションは、主に不動産や資源開発、製造業などに使われています。 リアル・オプションは、生産拠点や資源開発に必要な土地などをリースで購入する判断ができます。そのため、将来の市場価値と建設費用に対して柔軟な判断が可能です。
活用事例②オペレーション規模の調整
リアル・オプションは、ファッション業界やアパレル、鉱業など様々な種類の分野で使われています。オペレーション規模のリアル・オプションでは、事業の環境によって柔軟に調整できるように設定します。
市場の環境が良い時は、オペレーションを拡張し、悪い場合は縮小や生産の中止をする判断がしやすいです。
リアル・オプションの企業事例
次は、リアル・オプションを企業で行った際の事例を紹介します。リアル・オプションは、トヨタ自動車やユニクロでも行われています。
企業事例①トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、柔軟で効率的な生産を行っています。トヨタ自動車の「ジャスト・イン・タイム」は、「必要なモノを、必要な時に、必要な分だけ」をコンセプトにしています。ジャスト・イン・タイムは、大量生産方式ではないため、問題が発せしても多額の費用が掛かる心配がありません。
そして、トヨタ自動車は、問題の見える化を実施しており、事業の改善を常に行っています。
企業事例②株式会社ユニクロ
株式会社ユニクロは、リアル・オプションを行い、戦略を修正しながら事業を成長させました。ユニクロは、2001年にロンドンに出店、2002年に中国にお店を構えました。しかし、どちらも失敗しています。 しかし、致命傷にならない様に失敗を繰り返し、戦略を修正しながら事業を軌道に乗せました。
最初のロンドンの出店で資金をすべて使い切ってしまったら、ユニクロは大きくなっていなかったかもしれません。
リアル・オプションが学べる本
次は、リアル・オプションが学べる本について紹介します。リアル・オプションが学べる本を4冊にまとめました。
リアル・オプション 経営戦略の新しいアプローチ
リアル・オプションを見やすく学べるように図や文章を用いて、分かりやすい解説している書籍です。理解しやすいように、例題も多く、分かりやすいので初心者でも理解しやすい本です。また、医療開発やベンチャー企業などの事例も紹介しています。
実践リアル・オプションのすべて 戦略的投資価値を分析する技術とツール
リアル・オプションに使われる、モンテカルロシミュレーションや偏微分方程式などを用いて具体的に教えてくれる書籍です。そのため、リアル・オプションの基本はもちろん、実践も体験できます。少し専門的な知識が必要になるため、理解するのに時間がかか可能性があります。
入門 リアル・オプションオンデマンド
リアル・オプションが分からない人でも1から学べる書籍です。金融用語をあまり使わないで説明しているので、頭に入りやすく、最後まで楽しく学べます。ケーススタディも多く、新しい分野で事業を始めたい人におすすめです。
決定版リアル・オプション 戦略フレキシビリティと経営意思決定
リアル・オプションの実践を身につけたい人におすすめの書籍です。リアル・オプションの計算事例から導入する際の注意点などが掲載されています。また、NPV分析やボラティリティーなどの解説もあります。
リアル・オプションは経営戦略に欠かせない理論！
リアル・オプションは、今のビジネス業界に必要な経営戦略の1つです。リアル・オプションを活用すると、柔軟に対応できる経営戦略を立てられます。
また、柔軟な事業戦略は、リスクを回避できるほかに、利益の最大化も期待できます。リアル・オプションの経営戦略や成功事例、書籍を参考にして、新しい事業を立ち上げましょう。
