ホーソン実験の内容や仕事に活かす方法を知りたい!
現在、働き方改革や人手不足などによって「生産性の向上」が企業の大きな課題となっています。そんな生産性が重要視される今こそ批判や異論はあるものの、モチベーション理論の礎となった「ホーソン実験」に注目しましょう。
この記事では、ホーソン実験の意義や目的、ホーソン実験の内容・結果について解説していきます。また、ホーソン実験の効果を仕事に活かす方法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
ホーソン実験とは?
まずは、ホーソン実験の目的や意義について詳しく解説します。
人間の動機付けに関して行われた実験のこと
ホーソン実験とは「人間の動機付けに関して行われた実験」のことです。ホーソン実験は1924年から1932年の間、アメリカのシカゴにあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場にて、全米学術協会の全国調査会議が調査を行実施。
その途中からハーバード大学の精神科医であるエルトン・メイヨー氏などが加わる大規模な実験となりました。ホーソン実験によって、労働者の作業能率に関して「仕事の能率には人間関係が大きく関わっている」ことが広く知られるようになったのです。
ホーソン実験を行った目的
ホーソン実験は「工場の照明が明るければ、作業者の効率が向上するのか」という命題を証明する目的で行われました。しかし、ホーソン実験を重ねてみると、工場の照明の明るさと人間の作業効率についての関係を証明するのではなく、組織内の人間関係こそが生産性を上げるという結論に至りました。
メイヨーが実施した紡績工場での調査
ホーソン実験を主導したメイヨーという人物が実験に参加した背景について触れておきます。彼はかつてフィラデルフィアの紡績工場で高すぎる離職率に困った社長から直々に調査依頼を受けました。
実際に紡績工場を調査した結果、作業内容が単調であり作業者にとって休みのない孤独な作業の連続でした。作業者は仕事に対して意義を感じていないのです。
この調査結果を受けて、メイヨーは「1日に4回10分間の休憩をいれる」ことを推奨しました。その結果、離職率がなんと250%から5%へと下がったのです。
メイヨーが抱いた問題意識
この調査実験によって、メイヨーは「従業員を厳しく管理する環境が離職の原因ではないか」という問題意識を抱きました。事実、工場内では休憩がなく従業員から批判が相次いで起こったといいます。従業員をあたかも機械のように扱うことに対する批判は当然のことでしょう。
そこで、工場内の従業員には自身の好きなタイミングで適度に休憩をとらせようと提案しました。その結果、離職率は5%まで低下して生産性も向上したのです。
ホーソン実験以前は「徹底した監視」が重要視されていた
ホーソン実験以前の労働環境は、従業員を厳しい監視下に置いて働かせるのが効率的であるとされていました。これはいわゆる「テイラー主義」という管理手法です。
この管理手法はホーソン実験とは大きく異なり、資本家と労働者という資本主義的な搾取の体制を完成させ、大きな格差社会を生み出したと批判も受ける手法です。前述したとおり、紡績工場もその手法によって、徹底的に労働者を管理して休む暇もなく働かせ、従業員たちの批判は募っていきました。
ホーソン実験以後は「職場での人間関係改善」が重要だとされた
ホーソン実験以後の労働環境は、職場での人間関係が重要であるとされました。「すべての悩みは対人関係の悩みである」という言葉もあるほど、人は人間関係で苦しみます。
組織力の強化は人間関係を築くことから始まり、 その際に必要となってくるのがコミュニケーションです。こういった面からも、企業としてホーソン実験の効果を活かした組織内の人間関係を改善する改革がなされるようになりました。
ピグマリオン効果との違い
ピグマリオン効果とは、アメリカの心理学者ローゼンタールが提唱した理論であり、「期待をかけるとその対象の成果が伸びる」という考え方です。では、ホーソン実験とピグマリオン効果の違いとはなんでしょうか?
ホーソン効果とピグマリオン効果は、いずれも期待されているという心理が良い成果を生み出すという点では同じですが、一番の違いはその立場にあります。ホーソン効果は特に上下関係がないのに対して、ピグマリオン効果は「教える側」「教えられる側」という一対一の関係の中で生まれる効果です。
また、他人からの思いによって結果が成果が出るのか、自分が成果を出そうとして頑張るのかといった違いもみられます。
ホーソン実験の効果を活かした事例
ホーソン実験の効果をうまく活かした企業の事例として、株式会社サイバーエージェントがあります。この会社は以前から、急な社員の退職や社員の会社批判に悩んでいました。
このような社員の批判や離職を防ぐために「月イチ面談」を実施し、社員のキャリアに関する相談や先月の振り返りと今月の目標などを確認するようにしました。その結果、社員の批判は少なくなり、離職率の低下につながる効果がみられました。
ホーソン実験の内容と結果
ホーソン実験がどのよう経緯で結論にたどり着いたのか、各ホーソン実験の内容と結果について紹介します。
照明実験
ホーソン実験では、まず工場の照明に関する実験を行いました。具体的なホーソン実験の内容としては、工場内の照明が常に明るい状態で作業を行うグループと、最初の照明は明るいものの実験するごとに照明が暗くなるグループに分けます。そして、コイル巻きの作業速度がどの程度変化するのかを調べました。
このホーソン実験の目的は、工場の環境要因と生産性との関連を調べることです。事前の予測では「照明の照度を下げると作業効率が低下する」と考えられていました。
実験結果
このホーソン実験の結果として、照明の明るさと作業効率には明確な相関関係は認められませんでした。むしろ照明を暗くすると作業効率が高くなる現象が観察されたほどです。そのため照度には意義がなく、工場の物理的な環境と生産性には明確な関係がないと判明しました。
リレー組み立て実験
次にホーソン実験として、継電器の組み立てリレー実験が行われました。このホーソン実験の目的は労働環境と生産性の関連を調べることです。
ホーソン実験の内容は、組立作業を行う人を5人、部品を揃えるなどの世話役を行う人を1人の計6人の女性作業員でグループを作ります。そして労働条件を変えながら作業させました。例えば賃金や休憩時間、部屋の温度を変えるなどといった条件下で、生産性の変化について調査しました。
実験結果
今回のホーソン実験の結果は、労働条件が改善されるたびに作業能率が向上したものの、元の労働条件に戻しても作業能率が上昇しました。つまり、労働条件と作業能率向上の関係性は見いだせなかったのです。
またホーソン実験に参加した女性作業員は、特別に選ばれたことに誇りをもっており、仲間意識も強いという特徴がありました。メイヨーたちは労働環境には意義がなく、仲間意識こそが高い生産性につながるという分析をしたのです。
面接実験
リレー組み立て実験の結果をふまえて、面接実験も行われました。工場全体の8部門の約21,000人の従業員に対して「仕事に意義を感じるか」「今の仕事にやりがいを感じているか」「仕事の成果が出せているか」などの質問に答えてもらう形式です。個人的な感情と仕事のパフォーマンスには関連性があるのか調査しました。
実験結果
そのホーソン実験の結果、労働意欲が環境よりも仕事への興味や適性、職場における人間関係などの感情的な部分に強く依存していることが判明しました。そして、生産性に影響するのは職場における人間関係や監督者の強いリーダーシップである、という仮説を導き出しました。
バンク配線作業実験
最後のホーソン実験としてバンク配線作業実験を行っています。このホーソン実験は、従業員を職種ごとに「配線」「ハンダ付け」「検査」でグループ分けし、共同で配線作業を行わせるものです。
実験結果
実験結果によると、作業者の生産性には、能力よりも仕事に対する意識が影響することがわかりました。上司や監督者と良い人間関係を築けていれば、ミスが少なくなったのです。この実験からも「職場の人間関係が仕事の生産性には重要である」という結論が出ました。
以上が全部で4つのホーソン実験の内容と結果になります。
ホーソン実験の延長上にある理論
ここからは、ホーソン実験に端を発した人間管理論の延長となる理論を紹介していきます。
マズローの欲求階層理論
ホーソン実験の延長上にある理論として、アメリカの心理学者であるマズロー氏は、人間の欲求は5段階のピラミッドのように階層をなしているという欲求階層理論を提唱しました。その5段階の欲求とは「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「自尊欲求」「自己実現欲求」で構成されています。
それぞれの欲求が別々に満たされることはありません。下層の欲求が満たされることで、次の欲求が満たされていくのです。人が生きる意義を見出すには、5つの欲求を全て満たしていくことが重要であることを示唆しました。
マクレガーのX理論・Y理論
ホーソン実験の延長上にある理論として、マクレガーのX理論・Y理論は、アメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガー氏によって提唱されました。X理論・Y理論とは、人間観・動機付けにかかわる2つの対立的な理論です。
「人間は生来怠け者で、強制されたり命令されなければ仕事をしない」というX理論、「人間は生まれながらに嫌いということはなく、条件次第では責任を受け入れて自ら進んで責任を取ろうとする」というY理論があるとしています。
現代社会は知的労働が求められていたり、法律によって必要最低限の生活が保障されていることから、現在の日本の労働環境ではY理論が理想であると考えられがちです。
ハーズバーグの動機づけ衛生理論
ホーソン実験の延長上にある理論として、ハーズバーグの動機づけ衛生理論とは、アメリカの心理学者であるフレデリック・ハーズバーグによって提唱されたモチベーション理論です。
ハーズバーグ氏は仕事に対して「満足をもたらす要因」と「不満をもたらす要因」が異なることを示し、前者を「動機づけ要因」、後者を「衛生要因」と呼びました。動機づけ要因には、仕事の達成感や仕事に対する意義などが挙げられます。
一方、衛生要因には会社の方針や労働環境などが挙げられます。動機づけ要因を与えることによって、従業員のモチベーションが向上するというメリットがあります。
ホーソン実験の効果を仕事に活かす方法
最後に、ホーソン実験の効果を仕事に活かす方法を紹介します。
コミュニケーションの活性化を図る
ホーソン実験を活かす有効な方法として、社内のコミュニケーションの活発化があります。ホーソン実験において、信頼関係の強い環境は、労働者の働きやすさに繋がり、生産性が向上します。
メンバーの批判なども受け入れられる、お互いを尊重するような人間関係が理想的です。コミュニケーションの活発化を目的とした、交流会などを設けると良いでしょう。
相談先を複数設置する
ホーソン実験を活かすために、相談先を複数設置しておきましょう。この目的は、普段から人に頼れない内向的な社員の意見も把握しやすくするためです。
ホーソン実験の効果で成果を上げるためには、従業員同士が心地良い人間関係を築くことが重要です。コミュニケーションスキルが低い社員のために複数の相談場所を設置し、さまざまな人の意見を反映させられる組織を作りましょう。
社外活動を企画する
ホーソン実験の効果によって仕事で成果を出す方法として、社外活動を企画することがあります。社外活動とは「社会福祉や災害復興などのボランティア活動」「セミナー・勉強会・研究会」などを指します。
いろいろな仕事に対する意義や目的を持った人との触れ合いは、普段とは異なる刺激に繋がり、社員に対して良い影響を与えることができるでしょう。
優秀なリーダーを配置する
最後のホーソン実験の効果によって仕事で成果を出す方法は、優秀なリーダーを配置することです。適切な判断力とリーダーシップを持つ管理職がいる組織は、組織全体のパフォーマンスが発揮されて成果が出やすいでしょう。
このように、優秀なリーダーを育てることは生産性をアップさせます。組織内の管理職候補となる人材には、マネジメント研修やリーダーシップ研修を受講させることをおすすめします。
ホーソン実験の効果を活用して生産性を高めよう!
これまで、ホーソン実験の意義や目的、ホーソン実験の効果を仕事に活かして成果を出す方法について解説してきました。ホーソン実験により広まった人間関係論に対して、その解釈に関する批判などもありますが、現代の企業が活用できる方法があるはずです。
人間関係の改善によって企業の生産性を上げるホーソン実験の手法は、「働き方改革」の渦中にある現代の企業にとっても非常に価値あるものでしょう。ぜひ今回紹介したホーソン実験を参考にして、自社の人間関係について見直してみてください。