仕事の持ち帰り事情を解説!具体的な解決方法は何か?
業務内に業務が終わらず、時間外労働をしなければならないという経験をした人も少なくありません。しかし、賃金の支払われない持ち帰り残業は違法です。
本記事では、仕事の持ち帰り事情を徹底解説します。家に持ち帰った場合の賃金、具体的な解決方法や事例もまとめているので、参考にしてください。
持ち帰り残業の意味と現状
持ち帰り残業の言葉の意味
就労時間内に仕事が終わらず、家で仕事をしたという経験がある人は少なくありません。社会人になれば、誰しも1度は家で働くという経験しているのではないでしょうか。持ち帰り残業とは、就労時間内に終わらない仕事を自宅などの外部に持ち帰って行うことを意味します。
最近では、インターネットの普及に伴い、会社だけでなく自宅やレンタルスペースで仕事を行う人も増えています。しかし、どこでも仕事ができるという環境が、家で持ち帰り残業を行う人を増加させている要因にもなっています。
現状①持ち帰り仕事がある人の割合や頻度
34.5%の人は持ち帰り仕事の経験があります。この数値から、正社員の3人に1人以上が持ち帰り仕事をした経験があることが分かります。また、18.6%の人が、週3回以上仕事を持ち帰っています。
本来、会社での仕事は会社で行うため、自宅に持ち帰るものではありません。しかし、多くの人が仕事を持ち帰っていることが分かります。
また、1か月の持ち帰り仕事にかかる時間は16.2時間。本来ならプライベートな時間ですが、16時間以上も自宅で仕事に追われています。
現状②36協定の見直し
持ち帰り仕事は、場合によっては違法となるケースも。1日8時間、1週間で40時間を超えて社員を労働させる場合、企業は36協定を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
36協定には、労働時間外に月45時間、年間360時間を超えて残業させてはいけないと定められています。残業時間の上限は年に6回まで延長できます。 延長の上限は、1か月60時間、1年で420時間までが限度となります。 持ち帰り仕事が多い企業は、この36協定自体を見直す必要があります。
現状③大企業における持ち帰り残業問題
仕事を持ち帰ることが当たり前になっているケースもあります。持ち帰り残業を前提として、仕事を任せている会社も少なくありません。仕事を持ち帰ることを拒否すれば、周囲から白い目で見られるといった会社の雰囲気も、持ち帰り残業が減らない原因のひとつです。
現状④管理職における持ち帰り残業問題
管理職の残業に関しては、労働基準法で賃金の支払い義務は発生しないとされています。しかし、管理職が家で残業を続けることで、体調不良に陥る心配もあります。
現状⑤自主的な持ち帰り残業
自主的に仕事を持ち帰る人も少なくありません。会社では集中できない、自宅でゆっくりと仕事をしたいと考えて、自ら持ち帰り残業を選択します。
職場環境にストレスを感じている人は、自宅で仕事をする方が効率よく進められることも。会社で仕事がしづらいと感じている人は、会社の規則を確認した上で持ち帰り残業を行いましょう。
持ち帰りが多い保育士事情と仕事内容
自宅に仕事を持ち帰る保育士の割合と頻度
自宅への仕事の持ち帰りが多い業種といえば、保育士。多くの保育士が持ち帰り仕事が多いことに悩んでいます。保育士のうち、就労時間内に仕事が終わらずに持ち帰り残業をしている割合は、83.8%。そのうち、30%以上が毎日仕事を持ち帰るという調査結果も。
持ち帰る仕事のない保育士はいますが、わずか16.2%です。また、持ち帰り仕事にかかる時間は1時間~2時間が多いです。しかし、2時間~3時間の残業を強いられている保育士も少なくありません。
書類を書く時間を与えてもらえない
保育士は毎日子供たちの様子を帳面に記入したり、クラスのお便りを作ったりとたくさんの書類を作成する必要があります。それぞれの書類には期限が決まっているため、必ず仕上げなければいけません。
日中は子供たちをしっかりと見る必要があるため、書類作成の時間を確保することは困難。園によっては遅くまで開いているため、就労時間内に書類作成が終わらずに、持ち帰るケースが多いです。
行事前の持ち帰りが特に多い
保育園では、季節ごとにさまざまなイベントや行事が用意されています。親子ともに参加できる行事も多く、保育園行事を楽しみにしている人も多いです。しかし、行事を行うためには準備が必要です。
行事のアイデアは、上の人から認められるチャンスにもなるため、認められるためにアイデアを出し続ける保育士も少なくありません。しかし、行事をたくさん計画すると、その分準備が必要になり、保育士の負担が増えます。
深刻な人手不足
持ち帰り仕事が増える、根本的な問題は深刻な人手不足。近年、どの業界も人手不足で悩まされていますが、中でも保育士の人手不足は深刻化しています。
人手が足りていないと、1人当たりの仕事量が自然と増加します。そのため、就労時間内に仕事を終わらせることが困難になり、持ち帰り残業が発生します。この根本的な問題を解決するために、対策が必要になります。
仕事内容①指導計画の作成
保育士の仕事のひとつとして、指導計画書の作成があります。指導計画書とは、年間計画や指導計画を記載した書類です。指導計画書はパソコンではなく、手書きで記入しなければならない園も少なくありません。
保育士は指導計画書だけでなく、毎日の連絡帳や保育日誌、健康記録なども作成します。園での様子が書類でしか分からない場合もあるため、しっかりとした内容を記入しています。
仕事内容②壁面装飾や行事で使う小物の製作
保育室の壁面の装飾や、行事で使用する小物の製作も持ち帰りの仕事になりやすいです。保育園の教室には、季節を感じられるような装飾や、子供たちの作った作品が展示されています。このような飾りは、すべて保育士の手作り。
毎月、季節に合った装飾に変更する必要があるため、保育士は季節ごとに新たな装飾を製作する必要があります。
仕事内容③ピアノの練習
持ち帰り仕事として、ピアノの練習をしている保育士も少なくありません。子供が昼寝している時間など、日中のあいた時間は書類作成に追われている保育士が多いです。ピアノの練習は時間がかかるため、まとまった時間を確保するのは困難。
保育士1年目は、とくにピアノの練習に時間がかかるため、持ち帰り仕事になりやすくなります。卒園式や入園式では、さまざまな曲を弾き続ける必要があるため、慣れない間はピアノの練習が必須となります。
持ち帰り仕事が違法になるケースと違法にならないケース
違法になるケース①持ち帰り残業の指示がある場合
会社や上司から、持ち帰り仕事の指示がある場合、会社の命令とみなされるため、持ち帰り仕事を労働時間としてカウントする必要があります。もちろん、会社は持ち帰り仕事にかかる時間に対して、賃金を支払わなければいけません。持ち帰り仕事に対する賃金を支払わない場合、違法となります。
違法になるケース②黙示の指示がある場合
暗黙の指示で、持ち帰り仕事があることも。もちろん、暗黙の指示であっても、持ち帰り仕事にかかった時間に対して、会社は賃金を支払わない場合は違法です。
暗黙の指示とは判断が難しいですが、業務上、持ち帰り仕事をせざるを得ない状況、就労時間内に終わらないことが明らかな仕事を任せられた場合などが挙げられます。
違法にならないケース①自主的な持ち帰り残業の場合
自主的に持ち帰って仕事をした場合、会社の命令下ではないとみなされるため、会社は賃金を支払う必要がありません。
仕事の期限に余裕はあるが、余裕を持って仕事を終わらせない場合や自宅の方が仕事がはかどるといった理由で、仕事を持ち帰る人も少なくありません。
違法にならないケース②管理職が行う場合
管理職が持ち帰り仕事を行った場合は、違法になりません。労働基準法において、管理監督者に該当する人に対して、残業代を支払う必要はないとされています。
しかし、違法にならないからといって、部下の仕事を管理職が引き受け続けると、管理職の体調が崩れてしまうことも。このような状態が日常化すると、別の問題が発生するため、注意しておきましょう。
持ち帰り仕事の危険性
危険性①情報漏洩のリスクが高くなる
自宅だけでなく、カフェなどの飲食店で持ち帰り仕事をする人も。持ち帰り仕事の中にも、会社の機密情報が含まれていることがあります。持ち帰り仕事をする場合、情報漏洩のリスクが高くなります。
大切なデータや顧客情報の入った、会社のパソコンやタブレットを持ち歩く際は注意が必要。不特定多数の人が訪れる場所で仕事をする場合、特に注意してください。
万が一、情報漏洩をした場合は、会社から情報漏洩の責任を問われることも。退職に追い込まれることもあるため、情報の取り扱いには注意してください。
危険性②作業効率が悪くなる
持ち帰り仕事は、作業効率が悪くなるというデメリットも。自宅は仕事をする環境が整っていないことが多いです。適した仕事や椅子がないだけでなく、プライベートのものが多いため、集中できません。
自宅はリラックスする場所というイメージが強いため、ついつい仕事中にスマホやテレビを見てしまうことも。思うように仕事が進まず、必要以上に時間がかかることもあります。
危険性③疲労やストレスが溜まる
持ち帰り仕事を行うと、昼夜問わずに仕事をしなければならないことも。適度な休憩は、仕事を効率良く行うには必要不可欠。十分にリフレッシュしないまま、仕事を続けると、疲労やストレスが溜まります。
疲労やストレスが溜まった状態が続くと、身体の不調や精神的な病気を引き起こす恐れがあります。持ち帰り仕事をする場合は、プライベートの時間をしっかりと確保しましょう。
危険性④モチベーションが低下する
持ち帰り残業は、仕事のモチベーションを低下させます。持ち帰り残業を当たり前にしてしまうと、定時内に仕事を終わらせようという意欲がなくなります。そのため、モチベーションが低い状態で、ダラダラと働き続けてしまいます。
危険性⑤自分の時間がなくなる
持ち帰り残業をすることで、自分の時間がなくなります。自分の時間を持つことで、心身的に余裕が生まれ、趣味を楽しめます。しかし、持ち帰り残業が日常化すると、家でプライベートな時間を確保できなくなります。
危険性⑥労働問題に発展する可能性がある
持ち帰り残業は、労働問題に発展する可能性も。36協定を締結している場合、協定に従わずに持ち帰り残業を行った場合、法律違反になることがあります。
持ち帰り仕事の解決方法
解決方法①仕事量を把握する
持ち帰り残業をさせないためには、仕組み作りが大切。 持ち帰り残業が発生する原因として、仕事量を把握できないという点が挙げられます。 まずは、実際に行わなければならない仕事量を把握しましょう。
毎日、淡々と業務を行っていると、実際の仕事量が把握できません。まずは仕事を見える化し、効率化できる業務を見つけることから初めてください。
解決方法②業務の効率化を図る
就労時間内に仕事を終わらせるために、業務の効率化を図ることも効果的。最近は、ペーパーレス化やデジタル化が進み、短時間で行える業務も増えました。
効率よく業務を進めることで、持ち帰り残業を削減し、生産性やモチベーションのアップにもつながります。
解決方法③持ち帰りについてのルールを明確にする
持ち帰り残業をなくすためには、持ち帰り残業に関するルールを定めることも重要。例えば、社内のパソコンを出張以外での持ち帰りを禁止する、労働時間を上司に申告するなどといった、ルール作りが大切です。
どうしても持ち帰り仕事が発生する場合は、勤怠管理システムなどを利用して、賃金の支払いに漏れがないようにしましょう。
解決方法④社内で話し合う機会を設ける
持ち帰り残業をなくすためには、社内でコミュニケーションをとることも重要。コミュニケーション活性化させることで、自主的な持ち帰り残業に気づくことも。
また、他の社員とコミュニケーションをとることで、業務の効率化やミスの防止にもつながります。業務を効率化することで、残業の削減にもなります。
解決方法⑤完璧を求めすぎないようにする
仕事に完璧を求めないようにすることも大切。完璧主義の人は、1つ1つの仕事を丁寧に行うため、時間がかかりがち。他の仕事にまで手が回らないため、自然と持ち帰り残業が増えます。まずは、時間内に仕事を終わらせることを意識しましょう。
解決方法⑥夜型から朝型に変える
夜型から朝型に切り替えるだけで、持ち帰り残業をなくせることも。夜型の人は頭が回りにくく、1つの仕事にかかる時間も増えます。
また、寝不足を引き起こし、午前中の仕事に集中できないことも。朝方にかえることで、出勤してすぐに仕事に取り掛かれるため、時間内に仕事が終えられることもあります。
解決方法⑦会社に明確な指示を仰ぐ
持ち帰り残業を自ら断れない場合は、会社に対して明確な指示を仰ぎましょう。例えば、今日中が期限の仕事を任せられた場合、就業時間内で終わらないときは、持ち帰った方が良いか確認をとってください。
解決方法⑧労働基準監督署に相談する
会社が持ち帰り残業に対して、何の対策も行わない場合は労働基準監督署を利用しましょう。会社の指示で持ち帰り残業が発生しているにもかかわらず、賃金が支払われない場合は、労働基準法違反です。労働基準監督署に相談することで、会社に調査や指導が入り、労働環境が改善されることもあります。
解決方法⑨転職する
いろいろな手段を試したにもかかわらず、問題が解決できない場合は、転職を検討しても良いでしょう。転職に不安を感じている人は、このまま仕事を続けてていけるか、考え直してください。会社を辞めた後も、未払いの残業代の請求も可能です。
家に持ち帰った仕事の残業代を請求する時のポイント
ポイント①会社の指示を裏付ける証拠を集める
持ち帰り残業に対する賃金が支払われない場合、未払いの残業代を請求できます。残業代を請求するためには、会社の指示で、家で持ち帰り残業を行った証拠が必要。
持ち帰り残業は家などのプライベートな空間で行われるため、証拠集めが大変です。専門の弁護士に依頼して、必要な証拠を指導してもらいましょう。
ポイント②業務に専念した時間を記録しておく
実際に、どれくらい家で持ち帰り残業をしたか、時間を記録しておくことも証拠のひとつになります。家での業務開始時間と終了時間を記載するだけでは、証拠としては不十分。
持ち帰り残業は、家で行うため、合間にプライベートな時間が発生することも。仕事の区切りごとに、時間と内容を詳しく記載しておきましょう。
ポイント③成果物を添付して業務時間と業務内容を報告する
持ち帰り残業が終了したら、会社に成果物と業務時間を報告しましょう。会社がこのような報告を受けた場合、持ち帰り残業が会社の指示のもと行われていたと認識されます。
一番簡単な方法として、持ち帰り残業が終わった時点で、上司にメールで成果物と業務内容を報告しても良いでしょう。
持ち帰り仕事の判例
判例①小学校教諭のくも膜下出血公務災害事件
尼崎市内の教師が、公務が原因で病気を発症した事件。この事件では、持ち帰り残業による成果物が存在しないこと、持ち帰り残業は自宅で行うため、精神的、肉体的に負担が少ないと判断され、教師の長期労働は認められませんでした。
判例②国・さいたま労基署長事件
土木会社に勤めていた社員が、会社から技術者試験の受験を指示されました。受験勉強の末、3回目の受験で合格しましたが、その後、脳内出血が原因で倒れ、麻痺の障害を負いました。発症前の時間外労働が30時間と多くないことから、業務外と判断されました。
会社からの指令で受験指示があったこと、業務時間中に論文の添削が行われていたため、自宅でも受験勉強が持ち帰り残業として判断され、賃金が支払われました。
判例③潤工社事件
従業員が心不全で死亡した事件で、従業員の妻が労災の申請を行ったことから、会社との争いが始まりました。従業員の妻は、会社の勤務時間や持ち帰り残業が原因と主張。
裁判所は、業務を期日内に終わらせるために残業せざるを得ない状況を作ったとして、持ち帰り残業を時間外労働として計算すべきと判断しました。その後、業務が原因で死亡したと認められました。
判例④ツナガルホールディングス事件
従業員が長時間の残業を強いられ、鬱状態になり、未払いの残業代を請求したツナガルホールディングス事件。証拠としてパソコンのログイン、ログオフデータや業務日報を提示しましたが、時間外労働を裏付ける証拠としては、不十分と判断されました。
判例⑤丸井商会事件
会社のハードディスクを持ち帰ったとして、従業員が解雇を言い渡した丸井商会事件。しかし、業務で使用していたハードディスクが労働者の私物であること、情報漏洩の事実が確認されないことから、解雇を無効としました。
仕事の持ち帰り問題を解決しよう!
仕事の持ち帰り問題について、詳しく解説しました。家での持ち帰り残業が日常化すると、会社や自分にとってもデメリットになります。気持ちよく働き続けるためにも、仕事の持ち帰り問題を解決し、メリハリのある生活を実現しましょう。